散弾銃

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「ここ?」


なまえは石丸の後ろからヒョイと移動し、扉の前に立った。隣で石丸が頷く。なまえはチラリと石丸の部屋の扉を見て、再び自分の扉を見る。


「……何故、僕の部屋には無いんだ……」


ボソリと呟いたなまえを石丸が見る。
その真面目な表情に、石丸が小首を傾げた。


「何がだ?」
「部屋プレート……」


なまえはじっと、扉を見詰めていた。
まるで……最終ボスに挑むかのような、面持ちで。



「欲しかったんだね?あの可愛らしいプレートが欲しかったんだね?」
「う―――」


ん、と頷きかけて、
なまえは「ハッ!」と我に返った。
そして大いに目を見開いて、石丸へと振り返る。


「は!?欲しくないし別に要らない!」
「!?」


突然胸倉を掴まれ締め上げられた石丸は、苦しげに声を出す。
そこでなまえは嘲弄するかのように「ハンッ!」と大きく鼻を鳴らした。そして左の口角を釣り上げながら、愚昧なものを前にしたかのような表情となる。


「むしろ何故あんなセンスも品も無いデザインなのかと疑問に思う位だよ……!」
「ぐ……ま、ままま待ちたまっ……うぐッ……僕は何も―――がはッ……!」


両手を挙げ「不正は無かった」的なポーズをしようとも、なまえは一切見えて居なかった。染まる頬を隠すかの如く、余計に強く締め上げる。


「邪推は感心しないよ、石丸」
「そうではない゙っ!、僕は何も、っ、言っでいな゙―――」
「うぷぷー!みょうじ君血の気が多いねェ!」


その瞬間、なまえは振り返りながら手を離した。
ドサリと派手に、石丸が膝をついて崩れる。


「モノクマ……?」
「やあみょうじ君!」


その姿を確認した瞬間、なまえはハッとした。斜め下あたりで、石丸の咳き込む声がする。


「ご……ごめん!大丈夫かっ!?」


なまえは石丸の肩に手を添えながら大慌てで屈み、その背を摩った。


「ぼ、僕は大丈夫だ……」


顔を蒼くしているなまえに、石丸はそれ以上に真っ青な顔で「大丈夫だ」片手を上げる。善人なのか何なのか、怒る気配は全く無い。というかもう、余裕が無いようだ。

石丸は苦しそうに、もう片方の手で喉を押さえてはゼェゼェと息をしていた。冷や汗に伴い……鼻水に涎と大変なことになっている。
まるで呼吸器官の仕組みと急所を把握しきったかの様な締め上げ方に、余程苦しかったのだろう。

なまえは狼狽えた後大いに動揺しながらハンカチを取り出す。


「ほら、これ―――手品用だけど」
「んぐっ!?」


なまえはそのハンカチを口に突っ込んだ。再び苦しそうな声を出す石丸。
……この人は、思いやりがあるのか無いのかよく判らない。しかしその心配そうな表情から、悪意は無い事が読み取れる。つまり、質が悪い。






***





なまえは立ち上がり、モノクマへ振り返った。


「やあこんにちは、モノクマ。」
「後ろの彼は大丈夫なの?―――うぷぷ、流石プロってところ?」


口許を手で押さえながら体をくねらせ、反応を窺う様に見上げるモノクマ。なまえはまるで柳に風と言った様に、何の反応も示さず受け流す。


「ところで何の用?」
「みょうじ君に説明してない事があったね!だから今伝えに―――」
「その前に、」


なまえはピタリと、遮った。
そして片膝をつき、モノクマへ目線を近付ける。
突然の事に、モノクマは首を傾げる。
見上げる。


モニターに映る
なまえの表情は―――





「僕の事は名前で呼んでくれないかい?」





微笑んでいた。

モニター越しの、表情。
何のよどみも無い、その―――


「はあ?」


モノクマはとびっきり、気の抜ける声で返す。
―――少し、遅れて。


「苗字は余り好きじゃないからね」
「……」


画面に広がるその表情から、暫く目が離せないでいた。
そして――


「うぷぷ、あはははは!相変わら――おっと、何でもない、何でもない。」


首を振るモノクマに、なまえは片眉を上げながら首を傾げた。


「?」
「そんな事より!部屋の説明してないよね?」
「石丸の隣だろ?」
「あれれ?エスパー?」
「エスパーは僕じゃない。電子生徒手帳を、見せてもらったんだ。」


なまえは張り付けた様な微笑を浮かべたまま、素っ気ない。そしてモノクマが語尾を言い終えるか終えないかという、ギリギリの所で言葉を返している。


「あ、なぁるほ―――」
「そして君は僕に電子生徒手帳を渡しに来たんだろ、僕専用の。」


なまえは手を差し出す。
どんなに微笑を浮かべていようと柔らかい動作だろうと、つまりは「寄越せ」。


「むむ……まるであしらうかの様な態度……」
「(あしらってんだよ)」
「顔に書くな!もう、学園長に対して生意気だぞ!!」
「はい、ありがとうございます先生確かに受けとりました大切にします」


受け取ったというか、ひったくる様な手つきだったなまえ。なまえは立ち上がって石丸へ振り返ろうとしたが、「あ」と立ち止まる。
そして今度は立ったまま、モノクマを見下ろした。


「それともう一つ。部屋の鍵は?」
「部屋の鍵?ああ、鍵ね、部屋の鍵―――うぷぷぷぷぷ!」


突然笑い出したモノクマに、なまえはクイと片眉を上げた。
モノクマは意味深な表情で、なまえを手招きする。


「大声で言うのもアレだから、ちょっとこっちこっち」


なまえはほんの少し逡巡したが、石丸へ振り返った後小走りでモノクマの元へ向かう。


「そうそう!賢明だね、なまえ君」


モノクマはもう一度笑った後、なまえへズイと寄った。


「残念ながらねェなまえ君、君の部屋の鍵は……壊れちゃっているのです!」
「な……!?」


なまえは引き攣った。


「一応ね、施錠は出来るんだけど……力を強く込めると開いちゃうんだよねェ!」
「……」
「皆に悟られないように気をつけてね!じゃないと―――それを利用して、誰かが殺しに来るかも!」


赤い左目の奥で、不気味な光が過った。
なまえは無表情で、瞳にモノクマを映している。






「―――返り討ちにするさ。」







なまえは鍵を摘まんで立ち上がると、石丸の元へ歩んだ。






























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石丸君ェ……



         

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