散弾銃

□02
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なまえは鍵を回した所で、ふと手を止める。


「……まだ帰ってなかったのかい?モノクマ」


他人行儀な口振りで、溜息と共にそう呟いたなまえは、斜め下へ澄ました視線を寄越した。
目が合ったモノクマは「ドキッ!」と口で言いながら後ろへ仰け反る。それを見ていた石丸が仰け反りそうになる。


「いやあ、実はもう一つ伝えていないことがあってさ。」


モノクマは後頭部を掻く。
なまえは目を伏せ、さして相手にしていないように見受けられるが―――話を最後まで聞くまでは、決して次の行動をとらない。


「個室はね、間取りや家具はほとんど一緒だけど、人それぞれに似合うような部屋になっているよ!」


なまえは拍子抜けした。扉を開けば目で判る事だし、別に口伝にする必要もなかったように思ったからだ。

しかし石丸はなまえの隣で、感心したように目を丸くした。


「そうだったのか」


納得した声を零した石丸を、なまえは横目で見上げる。


「そうなのか?」
「ああ。他の部屋をじっくり見た訳ではないが、確かにそうだった気がする」
「見たの?全員の部屋」
「会議に招集する際にな」
「……あぁ。」
「なまえ君は手品師だから……手品師に似合う部屋……つまり、手品道具があったりするのだろうか?」
「さあ、そうなのかも―――」


ね、と口にするよりも早く、なまえはギョッとした。


扉の隙間から見えた部屋には―――銃器が沢山、飾られていた。


なまえは背中に氷水を浴びたように、ヒヤリとする。


「ん?どうか―――」


その石丸の声に、なまえは大きく肩をビクつかせた。
背後から、部屋を覗き込む、ゆらりとした気配。
なまえの鋭すぎる神経が、それをとらえる。


「したのk―――」
「ああああああ!!!」


なまえは石丸の後頭部を素早く掴むと、思い切り壁に「こんにちは(物理)」させた。石頭が石頭であるが故に奏でる様な強力な打撲音。

なまえは顔面にパイをぶつけるような仕草で、石丸の顔面を壁にぶつけたのだ。

そしてそんな自分に、ハッとする。
見れば、煙が。
突然、壁へ両手を突いた石丸に、なまえはビクリと肩を揺らす。


「な……何を……」


壁との隙間から、くぐもった声が聞こえる。



「―――何をするのだなまえ君ッ!痛いではないかッ!!」


石丸は両手を使い勢いよく壁から剥がれると、強く拳を握って眉を吊り上げた。目尻には涙が。


「ごめ――うわ鼻血っ。ってそうじゃなくて、あー……」


なまえは瞳を泳がせる。


「勝手に部屋を覗かれるのって、すごく困るというか。プライバシーの侵害と言うか。っていうか、僕の部屋を覗く許可をした覚えはないけど。無礼だぞ。」


見事な責任転嫁だった。
後半若干強気になっているあたりが、解せない。


「そんな言い逃れは―――否、しかし、確かにそうだな……」


しかし石丸は顎に手を当て、仕舞には納得したように頷いている。
善人と言うか、馬鹿と言うか阿呆と言うか。


なまえは「う、」と息を詰まらせた。むしろ責められた方が、随分と楽だからだ。
強引な言い訳に納得する様子に、後ろめたさを感じながら、なまえはぎこちなく口を開く。


「で、でも?やっぱり僕も悪かった、って言うか、その……あぁ!?」
「何だあれは……銃器っ……!?」


おずおずと俯いていたら、いつの間にか部屋へ入っていた石丸。なまえは慌てて追う。――因みにその際、密かにモノクマを閉め出していた。鼻先で扉を閉められたモノクマは、どこか哀愁があった。


「おい石丸ッだからプライバシーの―――」
「そんな事よりなまえ君、君は……手品師では、なかったか……?」


その言葉に、なまえは内心動揺した。
しかし、次の瞬間には











「―――手品で使う道具の一環さ。」









ふと、微笑を浮かべていた。

巧みなその表情。ただでさえ単純な石丸を欺くには、何の造作も無い事だった。


「僕はね、ただ手品を行うだけでなく、パフォーマンスや舞台設定も大切にしているのさ。だから時には、台詞を覚え演劇さえ行うんだ。」


なまえは一歩、石丸へと歩み寄った。
滑る様な、優雅な足取り。


「時には軍事じみた舞台、時には純和風で固めた舞台」


なまえはフワリと石丸に寄り添い、指を絡めた。そしてそのまま、舞踏の様にくるくると、数度回った。優雅な足取りに、石丸はぎこちない。それでもなまえの洗練されたリードの所為か、足が縺れる事は無かった。


「時にはロマンチックなお伽話の舞台、そして―――」


そこでピタリと、足を止める。石丸がよろける間もなく、なまえはクイと顔を近付けた。風の吹く様に、滑らかな動き。そして―――妖艶な、動き。


「―――舞踏会のような、舞台。」


目を細め、形の良い唇で弧を描く。
柔らかく上品に。



「―――……」



艶気を含んだ微笑に
石丸は目を見開いたまま、動けないでいた。



その心臓は―――不規則に、動作する。


胸に凭れる様に、身を寄せるなまえ。
握られた手は、添えるよりも強く、しかし柔らかく、そんな力加減がもどかしい。
密着した体は布越しに、なまえの体温を伝えてくる。






















「だからまあ、これも気にするな」


なまえは打って変わりケロリとした口調で言うと、スルリその腕から離れた。


途端に石丸は、先程までの体温や握られた手、そして距離を意識する。

急激によぎるそれらへ……思考停止。

石丸はただ茫然として、頬が紅潮するのを感じた。


























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なまえ君「この連載は、石丸がボロ雑巾となっていくお話です。」

苗木君論破早く。

   

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