散弾銃

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「くそっ……くっそ……」


なまえは石丸の手を強く振り払うと、両腕で顔を覆いながらフラフラと後退した。左右に大きく揺れながら後退する姿は、弱弱しい。

そんな姿を自覚したのか、なまえは両手を顔から退け素早く体制を整えると、乱れた前髪の隙間から石丸を睨んだ。ムッとした表情で睨むなまえに、石丸はパチリと瞬きをする。


「ここから出たら覚えておけよ……この僕にそんな狼藉、きっと後悔するぞ……」


なまえの表情は険しいものの―――拭いきれていない動揺があった。


それでも、その言葉には、不思議とそれなりの重みがあった。


しかし石丸は、全く意に介さずと言った様子で


「はっはっは、うんうん、そうかそうか」


なんて笑うのだからなまえは内心奥歯を噛み締めた。
宥めるような口調だった辺りがとくに癪だったらしい。

なまえは何だかもう放棄するかのように、一度大きく咳払いをした。






―――それにしても、






なまえはもう一度、改めて部屋を見渡す。

銃器を片付けた今、見渡した目に映るのは“手品師”の名に相応しいような部屋だった。

“いかにもそれらしい”小物や道具が飾られている。燭台や黒い布、解体ショーの為のボックスやクローゼット、それから大きなナイフやサーベル等もある。丸テーブルには深紅のテーブルクロスが掛けられており、その上にはトランプやワイングラスが置いてある。

全体的に暗く深い色でまとめられているこの部屋は、刃物等の不気味な小道具も相まってどこか陰鬱だった。


―――悪趣味だ。


なまえは横目で流すと、そして手に持っていたハンドガンを太腿のホルスターに仕舞う。


「?そんなものを身に着けて、どうするつもりだ?」
「さてね。」


なまえは素っ気なく返すと、チラリと瞳だけで石丸を見上げた。そしてフと鼻で笑う。


「ねぇ石丸。僕と部屋を交換しない?」
「……んん?それは困るぞ。僕は小道具の使い方は解らないし、何よりここはアイロンが無いからな。」


……何だその理由は。

なまえは大真面目な表情の石丸に、思わず眉を顰める。


「そんな事より―――

















モノクマァァッ!!」


突然張り上げた大声に、石丸は大いに肩をビクつかせた。


「な、何事d―――」
「呼んだ?」


背後から突如現れたモノクマに、石丸は全身の毛を逆立てるかの如くさらに仰け反る。しかしなまえはさして驚きもましてや怯えもせず、普段通りの顔つきでモノクマに近寄る。固まる石丸を人差し指で退けながら。


「呼んだ。モノクマ、ふと思ったんだけど……着替えはちゃんとあるの」
「ちゃぁんと用意してますよ。そこのクローゼット開けてみて」


モノクマは指の無い某猫型ロボットの様な丸い手で、クローゼットを指した。なまえはそこへ歩み寄ると、扉を開いた。そして思わず「うわっ」と声を漏らす。モノクマは可愛らしく首を傾げる。


「ね?」
「だからって―――何で全部同じ服なんだよ」


その言葉にモノクマは両手を腰に当てる。


「本当は皆、制服が入っているんだよ!でもなまえ君の学校制服無かったから―――でも、ある意味これがなまえ君の“制服”だよね?」


クローゼットの中には黒のベストやYシャツ、黒のスーツが入っている。さらには黒のハットまで準備されていた。

ニヤリと意味深な笑みを浮かべるモノクマへ、なまえは「そうですね」と呆気なく受け流す。

そこでふと、石丸は顎に手を当てると「他の生徒達も同様、制服が入っているのだな」と漏らす。そしてモノクマの方を見た。


「と、言うことは……僕の部屋のクローゼットも……」
「うん、こんな感じだよ」


その瞬間、なまえは弾かれるようにビックリマークを浮かべ、突然出口へ走り出した。


「!あ、何故君が走るッ」


その様子を見た瞬間石丸も弾かれるようにビックリマークを浮かべ、疾走してはその後ろ姿を追った。
慌ただしく走り去る二人の足音が響く。


その本気さたるや、運動会顔負けの勢いだ。


やがてなまえの部屋は


「……」


静寂に包まれた。
モノクマは首だけを扉に向けている。


「……放置?ボク帰っちゃうよ?ねえ、」


その声は――微かに震えた気がした。








***







―――見たい。

その一心で石丸の部屋へと滑り転がりそうな勢いとなる程までに激しく走ったなまえ(本気〜GACHI〜)は、バンッ!と勢い良くクローゼットを開けた。


「うわっ白に白を重ね白しかない」
「良く解らないが落ち着きたまえ」


追い付いた石丸は、ほんの微かに息を切らしている。
そしてなまえの後ろから覗き込む形で、同じようにクローゼットの中を見た。

因みに石丸、内心なまえの素早さに驚愕していた。……そして、ちょっと競争心と悔しさが刺激された。


「でも……こんな同じ制服ばかり、しかも10着くらい詰め込んだ光景って……何かもう、壮観と言うか何というか」
「?そうなのか?」


なまえの後ろで、同じようにクローゼットを覗く石丸は、キョトンとした顔でなまえを見下ろした。小首を傾げる様な声に、なまえは思わず振り返る。

扉に触れているなまえの両手の直ぐ上で、石丸も同じように扉を持っていた。そのため、二人の距離はとても近い。

しかしなまえにとって、それどころではないのだろう。密着と言っても過言ではないにも拘らず、なまえの頭は石丸の制服事情に対する疑問で埋め尽くされていた。


「え、」
「僕は見慣れているから驚かないぞ」
「!?」


なまえは思わず、顔だけでなく体も半分振り返った。


「僕は365日、晴天だろうと曇天だろうと雨天だろうと常に、この制服だからな。」
「!?……休日は、」
「勿論休日もだぞ」


ごく当たり前の一般論を口にするが如き表情で応答する石丸に、なまえは口を開いたまま硬直した。


「お……お前、何言って……」
「学校に休みはあれど、学生という生き方に休みはなし!そうだろう?」
「は―――」
「だから僕は、常に制服を身にまとっているのだ。僕は学生という生き方をしている内はな。」
「ああ……だから、か」


なまえは上手く働かない脳で思考を巡らせる。


「だからさっき、この制服だらけのクローゼットを見ても、平然と……」
「その通りだ。制服を着ていると身が引き締まる!なまえ君も試してみたまえ」


ニッコリと笑いかける石丸に、なまえは正直思考が追いついていなかった。






















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プレイ中にこの事実を知った当時私は、驚愕しかしませんでした。
暑い夏の日、出来事です。


   

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