散弾銃
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「うぅ、ん……」
小さな呻き声に、石丸は思わず椅子から腰を浮かす。そしてベッドに横たわっているなまえを覗き込んだ。
「気が付いたか……?」
その声に、なまえは揺蕩うような意識の中、ぼんやりと目を向ける。
目に映る―――眉毛。
そして真っ赤な、力強い目。
「鷹。」
「は、――?」
想像の域を遥かに超えた一言に、あの硬い表情をしていた筈の石丸も呆けた顔になる。
しかしなまえは何事も無かったかのように、少し目を擦った。
「ん……」
「起きなくて良い。そのまま安静にしていたまえ。」
石丸は気を取り直す様に、起き上がろうとするなまえを制した。なまえは特に抵抗する事も無く、再び枕へ頭を沈める。
ポス、と枕に頭を戻した様子を見た後、石丸はベッドの隣にある椅子へ、再び腰を下ろした。
「みょうじ君は先程、すっかり気を失って―――」
「下の名前で良いよ。」
再び不意を突かれ、石丸は躓いたように言葉を止めた。
「僕、苗字はあまり好きじゃないから。」
「では、なまえ君。」
石丸は姿勢をピンと正し、両足を開いている。膝の上には軽く握った拳が握られていた。
その姿勢の良さは、まるで何か式でも行っているかのようだ。
軽く辺りを見渡したなまえに、石丸は口を開いた。
「ここは僕の部屋だ。」
問われずとも、ハッキリとした口調で言う。
「部屋?」
「厳密に言えば希望ヶ峰学園の寄宿舎にある僕の部屋、となる。」
「……ふぅん。」
きびきびとした物言い。
それとは対照的に、なまえはぼんやりとした口調で言った。
「……ところで……」
その声に、なまえは石丸へと目を向ける。
「具合の方は……その、」
石丸の姿勢が、少し崩れた。
説明していた時とは、声も動作も少し異なっている。
先程まではやや軍人さえ彷彿とさせるような、きびきびとしたものであったにも拘らず、今はどこか安定していないように思えた。
なまえは少しの疑問を持ちながら横目で見上げたが、さして気にせず気軽に答えた。
「あぁ、大丈夫。」
なまえは肘を付いて、ゆっくりと上半身を起こす。―――両手に、黒い手袋をはめている。
「あぁ、まだ安静に……」
「良いんだ。」
ベッドに寝かそうと再び手を伸ばした石丸を、今度はなまえが軽く制した。
石丸はそれでも不安の残る様子で、伸ばした手を引っ込める。そこでなまえが突然「あっ!」と声を出した。意外にも大きな声だったので、石丸は少しだけ身を強張らせる。
「!ど、どうしたっ!?」
「もしかして、君が運んで……?」
目を丸くしたまま、小首を傾げたなまえ。何か重大な事を口にするのかと構えた石丸は「何だそんな事か」と、若干の動揺を残しなまえを見る。
「ああ、そうだが……」
「そうか。……ありがとう。」
「!いいや、僕は風紀委員として当然の―――」
「風紀委員?」
なまえはパチリと瞬きをした。“風紀委員”という単語に反応したのか、石丸はハッとして一つ咳払いをする。
「そうだ。僕の名前は石丸清多夏。超高校級の風紀委員として、ここへ来たのだ。」
歯切れ良いその台詞に、なまえの表情がフと引き締まった。
“ここ”という単語に―――己の置かれた状況を、強く意識したのだ。
なまえは顔を石丸から前に戻し、少し視線を落とした。
真剣な表情で、顎に手を添える。
そしてそっと息を吸うと、重く、真面目な声色で口を開いた。
「委員長、」
「名前で良いぞ」
「じゃあ、石丸清多夏。」
「言いにくくないか?」
「石丸」
「なんだね」
「一つ、良いかな……」
―――なまえはゆっくりと、顔を上げる。
顎に添えていた手が、離れていく。
石丸はその様子を、目で追う。
なまえの視線がゆっくりと、石丸へ移動する。
まるで定規で線を引くかの様な、真っ直ぐな移動。
石丸もなまえの手からなまえの目へ視線を向ける。
視線が合った。
緊張を裂くように
なまえの唇が、開く。
「僕達には今、何が起こっている……?」
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※二人共シリアス顔のままです。