散弾銃

□03
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「うむ。では次に、なまえ君から改めて自己紹介だ。」
「……僕?」
「自分の口から自分の事を紹介する事は、とても大切なんだぞ。」


一応体育館で説明あったからもう良いのではないか、と、なまえは考えていたが……石丸がそう言うのだから致し方ない。ここで無理に意地を張っても逆に面倒になるだけだ。

そう思ったなまえは、背筋の通った上半身を少し倒し、机の上で軽く手を組んだ。
軽く組まれた手や、肘の付き具合、視線。洗練されたように、上品な仕草だ。


「僕は“超高校級の手品師”と呼ばれている、みょうじ・なまえ。苗字は好きじゃないから、名前いいよ。よろしく。」


ニコリと微笑んで首を傾げれば、繊細な動きで前髪が揺れる。



その笑顔を隣で、間近で見て、


石丸は―――








「……」









自室に二人で居たなまえとは、どこか別人のように思えた。
否、別人、とまで言ってしまえば語弊がある。
しかし、それでも

何か少しだけ、違和感を覚えた。

しかしそれはまるで風前の灯が消えてしまうが如く、静かに消えた。





「天才手品師、みょうじなまえ殿……!」



突然鼻息荒く口を開いた山田に、殆どの人物が驚いて山田を見た。
なまえもチラリと、視線を向ける。


「その華麗なる容姿や仕草、手品を行う際の繊細な手つきから魅了されたファンも多く、中には“なまえ君の性別はなまえ君!”と叫ぶファンもいるみたいですなぁ……!」


眼鏡を持ち上げ得意げに鼻を鳴らす山田に、なまえは一瞬呆けた表情となった。そして疑問に眉を顰める。



“なまえの性別はなまえ”


……え。




「……どういう意味?」
「つまり!その麗人のような姿はもはや男性女性という性別の粋を越え!結果性別不明―――いいや、性別はなまえと扱われているのです!」
「詳しいなーお前」


桑田が呆れとも関心ともつかぬ声で言った。
不二咲はチラリとなまえを見たが、慌てた様に俯く。



「フフン、何故なら拙者、創作活動でみょうじなまえ殿をモデルに―――ゲフンゲフン。」


超高校級の同人作家である山田。

彼の作品に根付く深いテーマ、“性の向こう側”にピッタリだったなまえ。






なまえは知らない所でモデルにされていたらしい。





語尾を濁した山田になまえは瞬きをしたが、やがてフッと形の良い唇で弧を描いた。


「ふふふ……そのファンは鋭いなァ……」


目を伏せたなまえの口角が歪む。
山田は眼鏡の奥で、小さな目を瞬いた。


「と、仰いますと?」
「見事に見抜いてしまうなんて、優れた洞察力だと言いたいのさ。」


なまえはふと、目を細める。


「そう。僕の性別は僕であって―――性別など無いからね。」
「イメージ通りのキャラキタコレェェ!!後でデッサンさせて下さい。」
「うわっ敬語だっ!!」


何か普段よりも格好良い声で頭を下げる山田に、朝比奈は顔を真っ青にして両手で口を押えた。
澄ました様子で微笑を浮かべているなまえ。





その態度



仕草



対応







―――表情。





画面越し
“テレビ”で見た時と、同じ顔―――








そのほぼ目の前に座る舞園はぼんやりと、
脳の片隅でそう思った。


















        
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そして山田君自重。      

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