散弾銃

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こいつは……何を言っているんだ……?


365日制服で過ごすのだとニコリ告げられたなまえは、困惑していた。


―――ああそうか、こいつ“超高校級の風紀委員”だったっけ。超高校級って要は、狂人に近い何かという事か?


なまえは頬に一筋の冷や汗を流しながら困惑していた。なまえは多くを制服も生徒手帳も校則さえ無い学校で過ごした為、石丸の言っていることが余計理解出来ないらしかった。


「いいや、僕は遠慮してお―――あ。」


なまえの硬直していた表情がふと呆けた。目線は石丸の首元へと移っている。


「“参”……?参って何?」
「ん?ああ、これか。」


石丸は指で軽く撫で、フと微笑んだ。少し誇らしげだ。


「これはここへ入学する前の学校のバッジだ。」
「こっちは?」
「それは生徒会のものだ。」
「じゃあこれ」
「それは校章だぞ」
「中央に“高”って書いてある。これって高校の“高”だよね?」
「ああ、そうだが……」


なまえは「へぇ」と感嘆詞を漏らしながら、それを撫でた。


「……そんなに珍しいか?」
「うん――」


頷くなまえの好奇に満ちた視線へ、石丸は目を移した。


「……、」


途端に、その距離を意識した。

視線を下げればすぐ下に、なまえのうなじが見える。それどころか手を伸ばされ、首元を触られている。

呼吸が不器用になって行く。

石丸はそんな自分に大きな疑問を覚えつつも、一瞬、動きがぎこちなくなった。そしてなんとなく、なまえから視線を外す。


「僕の学校はイタリアだったから、漢字が刻まれてな―――」


そこまで言って、なまえは顔を上げた。
そしてハタと、動きを止めた。


「え?どうした……?」


なまえの瞳に映るのは、大きく右へ顔を逸らしている石丸の姿。


「別、に、どうもしな……」
「えぇ?」
「どうもしないったらどうもしないッ」


訝しげな顔すれば強く返されたので、なまえは「何ムキになってんだよ」と片眉を上げた。
石丸はと言えば、固く目を瞑って、口まで結んでしまった。

離れればいいじゃないか、と言いたいものだが……なまえが折角、楽しげに校章を眺めているので、離れる事は出来ないらしい。


「って、あ!これは“風紀委員”のシンボルか。」


今度は腕章を眺めるなまえ。
石丸の両腕を掴み、首を腕章の方へ傾ける形で眺めている。


「あ、ああ!そうだぞ」
「そっか、石丸は確か超高校級の風紀委員だったもんね」
「う、うむ。ところでその―――」


早口で言った石丸を、なまえは上目使いに見上げた。
石丸は懸命にこらえているものの、扉を握る手がワナワナと震えていた。


「否、そろそろ……良いのではないか、と……」
「まだ駄目。」
「!?」


無下に断わったなまえは、今度は胸元のメダルを見ている。

呆気無い応答に石丸はいよいよ強く目を瞑り、歯まで食い縛っている。
その顔はじわじわと紅潮し、冷や汗まで流している。


―――ちょっと待て。

僕は何故、ぎこちなく……こ、これは――緊張?緊張しているのか?
何故こんなに緊張する?近いから……か?いいや、近いだけで緊張する筈がない。そもそも何でこんなに近いのだ――待て、思い返せば僕が近づきすぎたのではないかッ……!

し、しかし、それにしても……もしかして、なまえ君が綺麗な顔立ちだから……か……?そして華奢だから――いいや、なまえ君は、男じゃないか。そうだ、男だろう。だからその―――緊張する意味が、まるで解らない。

確かに女の子の様にしなやかというか―――待て待て、僕は何を……!?不純だ!否、不純か!?もうよく解らない、解らないけど―――ああ、何だこの柔らかい匂いh―――「うーーーーーーーーっす!!!!」


その瞬間、石丸は背中に大きな衝撃を感じた。

グラリと、前へ大きく体が傾く。

クローゼットの扉から、両手が滑る。

そして、そのまま―――


「舞園ちゃんの手料理だって!!急げよお前ら食堂―――に?」


桑田はパチリと、瞬きをした。


「うわっ、そこまで派手に倒れる?普通。って言うか何これ、学ラン?」


学ランに埋もれ、もはや足しか見えていないなまえと石丸。

そんな二人を前にしたとて、桑田は悪びれる様子が一切ない。


「よく分かんねーけど、急げよな!全部無くなってても文句言うなよー!……あ!寧ろ来なくて良い!お前らの分は残らず俺が食べてやっから感謝しろよ!!」


桑田は弾む声でそう言っては、嬉々として走り去った。




























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「ひゃっほー」とか言い出しそうな桑田君。


       

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