散弾銃

□03
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石丸は目を見張ったまま、硬直していた。








「痛っいなぁ、もう……」








石丸は今―――








「うぅ、頭打った……」









なまえに覆いかぶさっていた。







否、それだけではない。
反射的になまえを庇ったため













―――抱きついていた。















「石丸は……大丈夫?」


なまえの声さえ聞こえない程、石丸は硬直していた。

口を一直線に結び、目を見開いている。
石丸はなまえの肩へ顔を埋めている形となっている為、なまえが横目で見れば刈り上げられた後頭部が見えた。


「石丸……?」


なまえはその肩を掴むと、石丸の上半身を持ち上げた。
パチリと、目が合う。


白い学ランに覆われた、狭い空間。
二人の体温が、占めている。

距離は近く、見つめ合う。

石丸の瞳にはなまえが、なまえの瞳には石丸が








まるで、二人きりの世界の様に―――







「ッ!?」



突然素早く立ち上がった石丸に、なまえは思わず両目を強く瞑った。

その勢いは凄まじく、全ての学ランがバサリと宙を舞った。

よろりとよろけた後、ピタリと硬直した石丸に、なまえは上半身を起こす。


「……?」


なまえの目に映る石丸は、真っ赤だった。動揺から瞳が揺れている。

石丸は真っ赤なまま、握りつぶすほど強く胸の位置を握った。

制服が皺だらけになる。

そして引き裂けるほど広がった口角は引き攣っていて、俯いている。

やがて背まで丸くした。汗が頬を伝い、ポタポタと地面に落ちる。


「え、何?大丈―――」


ぶ、と言い終えない内に
シュバッと敏捷な動きで石丸は片手で制した。


「気にしないでくれたまえっ」


声が裏返っているような気もしたが、なまえの位置からでは石丸の表情が見えない。石丸はなまえに背を向ける形で背を丸くしているのだ。


なまえは訝しむような表情だったが、今では……珍しく、本気で不安気な表情となっていた。


立ち上がると石丸へ近寄る。


「お……おい、お前まさか、変な所でも打ったのか……?」


なまえはおずおずと近づく。それに気付いた石丸は、ハッと振り返っては両腕で顔を隠す。


「い、いいや!大丈夫だ!大丈夫だからそれ以上近寄るでない!!」


必死で声を上げる石丸に、なまえはますます不安げな表情となる。


「まさか……なあ、隠さなくてもいいから、傷口を見せて?」
「そ、そうではないッ!!本当に違うんだ!本当に――」
「いいから、」
「っ!?それ以上足を動かすでないッ!休め!なまえ君そこで休めだ!!」


バシッと指差した石丸に、なまえは思わず“休め”の姿勢をで止まる。超高校級の風紀委員と物凄い形相とが条件として重なり、反射的に従ってしまったのだ。


「そ、そうだそのまま……そのままそこで……」


石丸はなまえを指差したまま、開いた方の手で真っ赤な額を覆いながら、目を伏せる。そのままの姿勢で、何度か深呼吸をする。


「まずは落ち着いて―――」
















「額が痛いの……?」










目を開けた瞬間、なまえの顔。
パッチリとした瞳いっぱいに、石丸が映っている。
そっと手を取り、額を見上げ――







その時、石丸の頭からくぐもった爆発音がした。
同時に多量の湯気が立ち上る。


「な……なな……」


石丸は声にならない声で口をパクパクさせながら後退した。


「る……ルール違反だぞ……さっき“休め”と言ったではないか……」


弱々しい声で指を指す石丸。
なまえは流石に、小首をかしげる。


「何か様子が変だぞ……?それに、そもそも命令を聞く義理はない」
「風紀委員の言葉には従うものだ」
「!?」


石丸は相当参っているらしかった。
自分でも何を言っているのか理解出来ていないらしい。

その顔はもうトマトの様で、さらに赤い目がグルグルと回っている。汗も滝の様だ。


「と、兎に角っ!僕は先に食堂へ行っているぞ!!なまえ君は少し反省してから来たまえっ!少し遅れてきたまえよっ!!少し遅れてからっ!!」


回らない呂律でやっとそれだけのことを言いながら、石丸は飛ぶように去って行った。

なまえは呆然と、その後ろ姿を眺めていた。


「なんだ……あれ……」


なまえはポカンとして石丸が去った方向を眺める。
数秒間そのまま停止していたが、


「……?」


首を傾げたまま、取り敢えず散らばった石丸の制服を戻すことにした。



























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なまえさんオーバーキルです。


         
         

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