散弾銃

□02
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「でも……少し、意外だな」


なまえは、肩を組もうとした桑田から軽やかに逃れると、平常心を取り戻す様に咳払いをした。



「何が?」
「君が、割と一途だなんてね。」



それは、確かな本心だった。

なまえは桑田の事を、異性に関して頭も思考も挙動も価値観も何もかもが軽そうだと思っていた。しかし今の様子を見ている限り―――割と、純粋なのかもしれない。そう考えが変わったのだ。

なまえは『桑田も、もしかすると見た目で損をしているのかもしれない』と眉を下げ、ほんの少し苦笑した。柔らかい、視線。


「なまえの方こそ勘違いしてね?」
「……え?」


場面展開、論破の予感。


「確かに舞園ちゃんも可愛いけどさ、別に“一途”とか大袈裟な物じゃないっつーか。」
「で、も―――」
「だって俺、他に気になってる人もいるし!」


桑田は後頭部を掻きながら、照れる様に笑った。
なまえにとっては、何故このタイミングで照れたような笑みを浮かべたのか解せない。しかしそれでも、脳裏でガラスの砕ける様な音を耳にした。気がした。


「他……?」
「そーそー!顔はイマイチだけど、すっげーダイナマイトボディなお姉さんでさぁ!まあ、舞園ちゃんも結構―――」
「……」
「でも朝比奈ちゃんも捨てがたいよなー」
「……」


なまえから柔らかい眼差しなど完全に消え失せていた。例えるならサハラ砂漠の様に枯れきった目をしている。ついでに言うと、表情もそうだ。建前上の微笑さえ忘れている。



「呆れるなぁ、桑田」
「え?」


突然生ゴミでも貶す様な声で吐いたなまえに、桑田は思わずなまえを見た。なまえは嘲笑するかのように一瞬だけ口角を上げると、ハンと鼻を鳴らした。目が笑っていない。
桑田は打って変わった態度に、目を点にしながら動揺した。ヘタレている。


「―――でもまあ、」


不意になまえは、右上あたりの、どこか遠くを見つめた。


「僕は別に、恋多きタイプを否定しないよ。今まで散々目にしたしね。」


小さく上がっていた口角やその表情から、桑田は何となく目が離せなかった。


「その毒牙に掛かる子達には気の毒だけど……本人は楽しそうで、気楽だ」


なまえは桑田へ視線を戻し―――笑った。


「――……」


桑田は目を見開いて、その笑顔を映していた。



「なまえ、さぁ……」



桑田は目を見開いたまま、独り言の様にそう言った。
なまえはその視線に気付き、見つめ返す。


「いや、なんつーか……」


桑田は目を逸らし、頬を掻いた。
頬を掻いて、もう一度顔を上げる。
再び呆けた表情のまま凝視する桑田に、なまえは瞬きをした。


「俺、さ。ロリっ子に興味ねーけど……お前に至っては、体系もろ男だけど……っていうか男だけど……」


ポカンとした様な顔で、なまえを見詰める桑田。
なまえも同様、そんな桑田の様子にほんの少し目を丸くしたまま腕を組んでいる。


「お前―――可愛いな。」
「ぇ、は……?」


不意打ち、という物は咄嗟の判断を鈍らせる。
不可解な桑田の言動に気が緩んでいたなまえは、突然“可愛い”と言われ呆けた表情となってしまった。


「俺にそっちの趣味はねーけど……お前、可愛くね?」


今この瞬間に、
なまえが桑田を投げ飛ばす事など造作も無い。


しかし――何もしなかった。


言動から、桑田が女慣れしていると察するに容易い。だからこそ、なまえは桑田に身を寄せる事を避けたのだ。

何故なら桑田に触れてしまっては、体格や骨格から性別を暴かれる可能性があるからだ。暴かれる事は避けられたとしても、違和感を覚えられる可能性がある。そうなってしまっては、後々都合が悪い。


つまり、投げ飛ばすにしては余りにリスクが大きいのだ。


「まあ――いいや。」


なまえは首を落しながらため息を吐いた。
そして片眉を上げながら、桑田を見る。


「桑田。もしかしてそんな趣味があったり?」
「いや、そんなんじゃねーけど。」


なまえは桑田の表情を観察した。
桑田の言葉に、妙な照れや動揺が隠れている様子は無い。


「あっそ。」


その事が分かると、なまえはあっさり踵を反した。


「可愛いと言われ喜ぶ男は稀有だぞ。さらに僕はその稀有な人間に含まれない。」


なまえは雑な口調で言いながら、適当に「じゃあ僕は寝る。お休み」と手を振った。
呑気に「おう」と手を振り返す桑田は、知らない。

なまえがまるで献立を考えるかの如く、「桑田への仕返し何にしようかな」と冷静に考えていた事を。



























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「冷蔵庫に何があったっけ」の要領で「凶器は何があったっけ」とか考えだすなまえさん。


この日を境に
桑田君の態度が一転します。

        
        

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