散弾銃

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「あれ、なまえじゃん。はよー」


振り返るよりも早く肩を叩かれ、なまえはほんの少し目を丸くした。声の方へ視線を向ければ、顔を覗き込むように「よっ!」と挨拶をする、桑田の姿。


「あぁ、おはよう。」
「なまえも起こされたんだろ?」
「ん?」


なまえは一瞬眉を顰めたが、すぐさま合点が行った。
思い出すのは、朝から部屋へ起こしに来た石丸の姿。石丸はきっと、全員を起こしに回ったのだろうと察したのだ。


「その通りだよ。」
「何なんだよぉあのイインチョは……うっせーし、無理矢理起こすし」
「朝から元気で爽やかで。」
「そうそ……あれ?それ若干褒めてね?」
「要は『奇行だ』と言いたいんだ。」


なまえは目を伏せながら言った。その口元は、ほんの微かに微笑んでいる。


「はあーあ……よっし、決めた!」


桑田は露骨な溜息の後、突如何かを決心した。なまえがチラリと横目で見上げると、丁度こちらを見下ろしたらしくバッチリと目が合う。


「俺、もう一回部屋に戻って寝る!」
「……え?」
「っつー訳でなまえ、皆にそう言っといてくれ。あ、あとイインチョには適当に誤魔化しといて」
「ちょ……っと待った、」


じゃ!なんて今にも踵を反しそうな桑田の腕を、なまえはガシリと掴んだ。桑田は「あ」とも「は」とも判断のつかぬ呆けた声を出しながらなまえを見下ろす。


「きっと無理だと思うよ。知っているだろ?あの狂気的な熱血さとド根性。面倒な説教のために目を光らせ地獄の果てまで呼び戻しに来ると思うよ―――っていうか僕に押し付けるな面倒臭い。」
「えぇー……」


説得を試みる事を放棄したであろうなまえは露骨な本音を口にした。その表情は刺々しいを通り過ぎて大いに清々しい。桑田は目を線にしながら、乾いた声で間延びした声を出す。


「あー……じゃ、なまえのベッドで寝るわ。」
「!?」


突然何を言い出すのかと、なまえは目を丸くした。


「そうすれば、俺の部屋に呼びに来ても『あれ居ねェ!?』ってなるだろ?」
「要は僕も巻き添えって事じゃないかうわ握手するなッ!」


何処か意気込みまで感じさせるような握手に、なまえは「触るなッやめろ離せッ」と忙しない。しかし流石は超高校級の野球選手と言った所なのだろうか、握力故にその手が振りほどかれる気配は一向に無い。


「ちょ―――ねぇ一旦放そう痛いからっ痛いからッ!」
「お、おはよう二人とm―――ご、ごめん」


突然話しかけられたなまえは、必死の形相のまま振り返る。眉間に皺の酔った顔を向けられた苗木は、弱弱しく謝罪を付け足した。何も悪い事をしていないにも関わらず、もう脊髄反射のなす業だ。


「苗木君!丁度良い所に……」
「えっ、えぇ!?」


ニヤリと口角を歪めたなまえに、苗木は思わず身を逸らす。しかしだからと言ってなまえはもう少し物腰を柔らかくするなんて優しい事はしない。それどころか


「はいバトンタッチ。このタワシ頭を君のベッドに寝かしてやって。」
「え、ええッ!?ちょっと待っ―――」
「ちょっと待て!これのどこがタワシ頭なんだッ!!」
「えそっち!?じゃなくて――」
「じゃあね。」


なまえは苗木の言葉を掻き消すように、強い口調で被せた。そして一瞬の隙にスルリと身を離す。


「僕は食堂に行く。……行かないと、石丸煩いし。それに―――」


なまえはふと、視線を落とした。長い睫や前髪が、瞳に影を作る。


「僕も少し、皆に話しておきたい事があるしね……」


独り言の様に呟かれた台詞に、桑田も苗木もなまえを見ていた。
なまえはパっと顔を上げると。ヘラリと口元を緩めた。


「でもその前に、少し野暮用が。」
「野暮用?」



なまえは気の抜けるどこか陽気な声で「チャオ」なんて返しながらクルリと踵を反した。そしてそのまま、涼しい仕草で去って行った。






「(―――なまえ、君……)」






苗木は、そんな後ろ姿を目で追う。








「(このタワシ頭の人、どうすれば良いの……)」







切ない様に、眉を寄せながら―――






























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苗木君ェ……
仄かに微かに薫る苗木君の黒さ(?)。


そして「Ciao!」って挨拶良いですよね。チャオ。
それから「Hola!」も好きです。スペイン語ですね。オーラ!

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