散弾銃

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「うぷぷぷぷ、やっぱ食堂よりも体育館の方が、雰囲気もテンションも上がるね〜!」


例の如く演台から突然飛び出したモノクマは、マイクの前で全員を見渡した。


「で?私達をここへ呼んだ目的は何なの?」


江ノ島はモノクマを睨みながら、腕を組む。
なまえは江ノ島の後ろ辺りに居た。無言でモノクマを見遣るなまえの目は、いつになく真面目だ。殺人を催促されている今、モノクマの言動を軽んじる訳には行かないのだ。
モノクマは一つ二つ無駄口を叩いた後、本題に入る。


「え〜、学園生活が開始されて数日が経った訳ですが、まだ、誰かを殺す様な奴は現れないよね!」


その言葉に、不吉な予感がこの空間に過った。


「オマエラ、ゆとり世代の割にはガッツがあるんだね……でも、ボク的にはちょっと退屈ですぅ〜!」
「な、何を言われたって……ボクらは……人を殺したりなんか……」


しょんぼりと項垂れるモノクマに、苗木は強く反発した。しかしそれは所詮虚勢であり、表情や握った拳には拭いきれていない動揺と不安が薄らと浮かんでいた。
モノクマは突然、大きく口を開けて笑った。その口には鋭い牙が光っている。


「あ、わかった!ピコーン、閃いたのだ!場所も人も環境も、ミステリー要素は揃っているのに、どうして殺人が起きないのかと思ったら……そっか、足りないものが一つあったね!!」
「た、足りないものって、なんだよ……」


そんな苗木の声に、モノクマは笑った。


「……ずばり“動機”だよ!うぷぷ、だったら簡単!僕等が皆に“動機”を与えればいいだけだもんね!」
「(動機、ねぇ……)」


なまえは『どこまでも下卑た奴だ』と眉を顰める。そんな様子から察するに、なまえ自身はそう深く動揺していないらしかった。
それとは対照的に、大和田は噛みつくように声を上げる。


「動機だぁ……?どういう意味だッ!!」
「ところでさ、オマエラに見せたい物があるんだ!」
「話変えんな、コラァァ!!」


大和田は蒼褪めているとも赤くなっているとも判断憑かぬ顔で青筋を浮かべ、拳を強く握った。


「オマエラに見せたいのは、ちょっとした映像だよ……あ、違うよ。18禁とかアブノーマルとかじゃないよ!ホントに、そういうのじゃないんだからッ!!学園の外の映像なんだってば!」


“学園の外”
閉じ込められ、監禁され、外の情報は一切得ていない。
そんな状況下、その単語に耳を傾けない者は居なかった。

苗木は息を呑みながら、モノクマへ口を開く。


「学園の外の……何の映像だよ……」
「ヘヘッ、旦那も気が短けぇや!そいつは見てのお楽しみじゃねーですかッ!なんでも、学園内の“ある場所”に行けば、その映像が見られるようになってるらしいですゼッ!」
「映像……」


そこでなまえは「あっ。」と気の抜ける声で顔を上げた。思わず数名が、なまえへと振り返る。

なまえはステージ上のモノクマを見上げたまま、顎に手を当てうっすらと笑みを浮かべた。


「あの時、視聴覚室にあったダンボールは、それの事だったんだね。つまりあの中には―――動機となる映像が入っているんだ?」
「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」


モノクマは振り返りざまの様な角度で、なまえを見下ろした。

なまえは「霧切君」と言って、霧切へと視線を向けた。
霧切はなまえへ視線を上げる。


「僕がさっき、食堂で言っていたのは、これの事だよ。朝食会の前に視聴覚室へ入った僕はダンボールを見付けたんだ。そこで―――モノクマに遭遇した。……ね?さっき話す必要は無かっただろう?」
「―――ええ、そうね。」


霧切は目を伏せながら短くそう言って、髪を少し払った。そして顎を少し引いて、なまえを見据えた。


「でも……一つ良いかしら。貴方はどうして、視聴覚室へ行ったの?朝食会があると知っていながら、遅刻覚悟でそこへ向かう必要なんてあったのかしら?」
「何となくうろついていただけだよ。」
「本当にそう言えるの?だって、他人へ説明するときに“野暮用”ってはっきり言っていたじゃない。それは、明白な意思がある際に使う言葉じゃないのかしら?」
「それ、聞こえてたんだ。」


なまえはパチリと瞬きをした。


「―――すぐ後ろに居たのよ。」
「えっ?」
「……」
「あ、ごめん。」


全く意外そうな顔をしてしまったなまえは、黙ってしまった霧切に謝罪した。気付かなかったなんて口が裂けても言えない。何故ならそこに、“影が薄い”やら“空気”やら、胸をえぐるようなニュアンスが伴ってしまうからだ。


「……別に、良いわよ。」


霧切は絶対的なポーカーフェイスでポツリと零した。


「残念だけど―――特に深い理由は無いよ。ただ何となく、視聴覚室へ行っただけなんだ。」


霧切は無表情で、なまえを見据える。
なまえは唇で弧を描いているものの、しっかりとその視線を返す。


「何か虚構を築く訳にも行かない。別の理由を求められたとしても、それ以上に説明しようがないよ。」


なまえははっきりと、そう断言した。

――それ以上、口を開く気は無いらしい。

霧切はじっと、なまえを見詰めた。数秒間見つめて



「―――そう。わかったわ。」


ふと目を伏せる。


「視聴覚室に殺人動機となる様な映像があるんだったわね。……だったら、すぐに確認してみましょう。」


霧切は切り替える様な口調で、淡泊にそう言った。
そしてスとモノクマへ目を向ける。


「でも、その前に聞かせてもらえる?あなたは何者なの?どうしてこんな事をするの?あなたは私達に何をさせたいの?」


その質問は、誰しもが胸に抱いていた物だった。
鋭い視線に、モノクマは可愛らしく小首をかしげる。


「ボクがオマエラに……させたい事?あぁ、それはね……」





「絶望―――それだけだよ。」




シン、と辺りが静まりかえった。
モノクマの目が、不気味に赤く光った瞬間を誰も見逃していない。


モノクマはパッと顔を上げ後頭部に手を回すと、朗らかな声で続ける。


「後の事が知りたければ、オマエラが自分たちの手で突き止めるんだね。この学園に潜む謎……知りたければ好きにして。僕は止めないよ。だって、お前らが必死に真実を探し求める姿も、面白い見世物だしさッ!僕も楽しませてもーらおっと!」



例の陽気で不気味な笑い声が、
体育館内で反響した。



























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ぶひゃひゃひゃひゃ!
なんて笑い方、よくよく考えると凄まじい。
      


    

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