散弾銃
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「大丈夫か……?」
「は……、なん、で……」
江ノ島は強張った目で、自分が居た所を映した。
ぎこちなく移動する視線、その先に―――深々と地面へ突き刺さる、槍。
江ノ島は凍て付いた。
否、江ノ島だけではない。
ここに居る生徒全員が、凍りついたまま凝視していた。
「な、に……」
鋼鉄製であろうその槍は、体育館の床へ、いとも容易く深々と突き刺さっていた。地面にささくれが少ない事が、その先鋭さや威力の凄まじさを示唆していた。
固い床がこのザマだ。人間ともなれ、一溜まりも無いだろう。
―――つまり。
「あた、し……殺され、か、け……?」
「君は馬鹿かッ!!」
その声に、江ノ島は肩をビクつかせた。
声の主へと、蒼ざめた顔を向ける。
「あ、れ……?」
目に映るのは、眉根を寄せているなまえの表情。
なまえもまた――蒼ざめていた。
そこで、肩を掴む力がグッと強くなる。
江ノ島はそこで初めて、なまえに助けられたのだと気付いた。
「ここでの校則違反は死に値するんだ!!殺されると思わなかったのか!?」
そこでなまえは、不意に言葉を止めた。
大きく見開かれた、江ノ島の瞳。
なまえの姿を映しているその瞳は、小刻みに揺れている。
―――殺されると思わなかった、のか……?
「江ノし―――」
「ちょっとちょっと!何で邪魔しちゃうかなぁ」
気の抜ける声に、なまえは勢い良く顔を上げる。
「おかげで殺せなかったじゃない!」
その言葉に、江ノ島は息を詰まらせた。
震える身体を押さえ、ぎこちなく、モノクマへ目を見遣る。血の気の失せた顔に冷や汗、呼吸は荒く、目は―――虚像を映している様に、虚ろだ。
なまえはじっと、江ノ島の姿を見詰めている。
冷静にではなく、動揺したかのように。
「しょうがないなぁ。もう一度、召喚魔法発動!」
その言葉になまえはハッと顔を上げ、反射的に江ノ島を抱く腕に力を込める。
「―――と、思ったけど。もういいや。仕切り直しなんて芸が無いし、飽きた。」
酷く投げ遣りな口調だった。
いつもは腹立たしい程におどけた口調をしているモノクマとは、まるで別物のような印象がある。
モノクマはステージによじ登っては、演台に飛び乗った。
「何度言っても覚えないオマエラに、もう一度言うよ?僕への暴力は禁止!こんなつまらない事で命を失うなんてバカバカしいでしょ?僕だって君たちの大切な命、こんなことで奪いたくないんだよぉ。」
―――どの口が言ってんだ、と誰かが悪態を吐いた。
「わかったらそのDVD、ちゃんと観ておいてね!じゃあ!」
モノクマは例の如く、また何処かへ姿をくらました。
***
「僕は江ノ島君を部屋に運ぶ。」
なまえはそう言いながら、江ノ島を起こした。
茫然自失の状態にあった江ノ島も、少しずつ回復しているらしくおずおずとだが身を起こす。
「触んないで、よ……」
なまえは江ノ島を無視して、抱き上げた。
これに江ノ島は目を丸くする。
「ちょっと……!」
「“大丈夫”だなんて言いたいのなら、それなりの信憑性を持たせなよ。」
「……」
冷たい。
なまえは目さえ合わせず前を向いたままだった。その素っ気ないような物言いに、江ノ島は黙ってしまう。
なまえは立ち上がると、さっさと体育館を後にした。
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