散弾銃

□02
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「ね、ねぇ」


抱き抱えられた状態のまま江ノ島が顔を上げると、素っ気なく冷たい声で「何?」と返す。江ノ島はチクリと、胸が痛んだ。


「……アンタなんかに頼らなくても、一人で歩けるんだけど?」


なまえはピタリと足を止めた。
そして軽く息を吐くと、江ノ島を見下ろす。


「ねぇ、判る?僕は不機嫌なんだ。」
「だ、だから何」


江ノ島は動揺しながら、その感情の読み取れない目を見返す。
なまえは真っ直ぐに―――江ノ島を見た。







「どうしてあんな、無謀な行為に及んだんだ。」






なまえはピシャリと言った。



―――怒っている。



江ノ島は微かに、動揺した。


「そ、それは……だって、誰も本当に殺されるだなんて思わない、し……」
「……」
「あ、あのさ。本当に一人で歩けるから。その……人に触られるの、好きじゃないんだよね。」


江ノ島は適当な理由で誤魔化す。

なまえは無言のままそっと膝を折ると、床に座らせるかのように下した。気まずさを感じていた江ノ島は、確かに微かな安堵を感じる。それでもまだ動揺が隠せずに、どこかおぼろげな態度だった。

そんな江ノ島を、なまえはじっと見下ろす。
そしてしばらくして、ため息を吐いた。


「江ノ島君―――僕はね、」


柔らかな声に、江ノ島は思わず顔を上げた。

なまえは膝をついた状態で、江ノ島を見下ろしていた。
その腕でまだ、江ノ島の背を支えている。


「僕はここを、全員で脱出したいと考えているんだ。―――ううん、必ずそう実行する。」
「……」


さっさと立ち上がって去ればいい。
そう、思ったのに。





「故に一人の犠牲も、許されないんだ―――」





江ノ島は不思議と、その視線から目が離せないでいた。


「君だってここを出たい。そう、思わないかい?」
「あた……しは……」


その質問に、目を逸らす。










―――答える事が、出来なかった。

















「――ごめん。」


低く呟かれたその声に、江ノ島は驚いて顔を上げた。


「えっ……?」
「露骨に怒り過ぎた?」


軽く笑ったなまえに、江ノ島は目を丸くする。
突然何を言い出すのかと、呆気にとられたのだ。


「僕が怒ると―――それなりに怖いだろう?」
「え、は?別に、そんなこと」
「そう?ふふ……少し怯えた癖に。」
「な―――はぁっ!?」


意地悪な笑みを浮かべたなまえに、江ノ島は思わず素っ頓狂な声を上げた。そんな江ノ島に、なまえは笑った。


「あはは、冗談だよ。」
「……」


―――からかわれている。


江ノ島は、拗ねたかのように、ほんの少し唇を尖らせた。
斜め下に視線を向けながら――ほんの少し、眉を下げながら。


今の彼女は、表情に乏しい。


「君は―――」








なまえの唇が動いたとき、江ノ島はゆっくりと目を見開いた。



見下ろしている、その角度。






“やあ、こんにちは。浮かぬ表情のお嬢さん?”





“どう?驚いた?”





“僕は魔法使い……なんてね。”








脳裏にぼんやりと、声が甦る。
思い出すのは、その微笑み。





“ねぇお嬢さん。君は―――”






「どこか悲しい目を、しているね」





遠い記憶と、声が重なる。





“すました表情も、素敵だけど”






「笑うとさらに、素敵かもよ―――?」







江ノ島は脳裏で声を聞く。
それは現実なのか過去なのか、曖昧で判断できなかった。

余程ショックが大きかったのか、頭はまだはっきりと覚醒しない。
それ故に、だろうか―――




「あ―――」




なまえの丁度、頭のあたりに
太陽を見た気がした。


















二度と戻らない、追憶と共に。











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