散弾銃

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なまえは江ノ島と別れた後、視聴覚室へと向かっていた。寄宿寮の出入り口へ向かう途中で、監視カメラを見上げた。
見上げたところで―――


「……ふふ、」


目を伏せ、口角を歪めた。
少し顔をも伏せている為表情は見えないが、どうやら思い出し笑いをしているようだった。その吊り上った口角はどこか毒々しく……決して、健全には見えない。


思い出し笑い。
なまえは、視聴覚室へ向かった時の事を思い出したのだ。



***



視聴覚へ向かった時、つまり江ノ島を救うよりも前、さらに体育館に全員が集合する前の話だ。
なまえは皆が食堂へ集まっている間に、一人視聴覚室へ向かっていた。


なまえは視聴覚室の扉をほんの少し眺めると、ドアノブに手を掛けた。


……鍵が開いている。


そうと分かると、なまえは何の躊躇もせずに入った。
誰も居ない視聴覚室には、扉の軋む僅かな音でさえ響いた。暗い。明かりさえついていないそこはまさしく、機能を停止しているかのようだった。
なまえは扉を開いた瞬間、軽く目を丸くした。


「(ダンボール……?)」


入り口近くの机に、一つの段ボールが置いてあったのだ。なまえは一直線に、扉さえ閉めず小走りでそこへ向かった。そして手で触れる。
その瞬間―――


「コラッ!!」


突然響いた大きな音に、なまえは目を見開いた。足元を見れば、開いたままの扉から入る明かりが、地面を伝って伸びている。そこに見えるのは、黒い影。耳の様な形。


「モノクマ……」
「勝手に漁っちゃ駄目じゃない!!」


なまえは目を細めながら、首だけで振り返った。
そして


「ちょっと!?駄目だってば!!メッ!あっ」


なまえは無言のまま、箱を空けた。
中に入っているのは


「……DVD?」
「DVD?じゃないよまったく!」


後ろで地団太を踏んでいる気配に、なまえはやっと振り返った。そして腕を組む。


「駄目って言ったのに。酷いなぁもう。大体、何で一人だけこんな所にいるのさ?皆食堂に集まってるのに。ま!殺人計画でも目論んでいるのなら、大歓迎なんですけどね!とびっきりドロドロでグロングロンでグニグニのやつとかね」


モノクマは頬を染めながら、後頭部を掻いた。


「でもね、とりあえず視聴覚室から出て行って欲しい事には変わりありません。ってことで、ちょっと出て行ってもらいます。」
「嫌だ」
「ガッテム!!……っていうかなまえ君さあ、実は深く考えもせずボクの言葉に反抗してない?脊髄反射じゃない?とりあえず反抗するとか、そんなノリじゃない?」


なまえは腕を組んだまま、静かな敵対心を保ちつつ……


「(よ、よく喋るな……)」


と内心思っていた。



「早く出て行きなよ!」
「どうして?」
「だってボクが背を向けた途端、そのDVD盗んじゃったりされたら困るじゃない!ボクの見ていない間に!!はい、だからボクが今目を向けているこの間に部屋を出て下さい。」
「そう言う校則は無いだろう?」
「校則は無くても僕は学園長です!生徒よりもエライのです!」
「学園長?」
「学園長!」
「……へぇ……」


そこでなまえは、スと顔を上げた。
そしてゆっくりと、挑発するような笑みとなる。


「それはいつ、どこで、誰が決めたんだ……?」


無論それは、“僕の知った事ではない”と伝えたいわけではない。


この学校が、コロシアイが、そして学園長が、成り立っているとう現実は一体誰によるものなのか―――そのことが、知りたいのだ。



「ううう……なまえ君が反抗的な態度ばっかりで、先生がっかりです……」



―――あくまで白を切る、か。
なまえはそうと分かると、それ以上食い下がらなかった。


「ねェ、モノクマ。“ボクが見ていない間に”なんて言ったけど、それは不可能なんじゃないかい?」
「うん?」
「ほら、あれ。―――監視カメラに死角なし、だろう?」


そこには寸分の隙も見せない監視カメラ。死角など無いであろうそれは、闇の中で不気味に目を向けていた。


「モノクマ本体がそっぽを向いていたとしても、どうせ監視カメラで見え見えじゃないか。」
「本体、とか言わないの!夢がデストロイしちゃうから!!大体なまえ君には―――」


モノクマは例の如く、また長々と話し始めた。説教……と、言うのだろうか。なまえは呆れ顔で見ていた。





呆れ顔も、演技だ。




なまえは仮面の下で、そっと鋭く監視する。


―――モノクマの言動は、明らかに不自然だった。

神経質かもしれないが、あの発言には何か引っ掛かりを覚える。勘の鋭い僕のことだ、この直感は信用するに値する筈。
それにしても……モノクマは、カメラの性能を信頼していないのか?
モノクマの目を通すカメラの方が、優れているのだろうか。
否、それ以外の理由があるのかもしれない。
どちらにせよ、“モノクマの目”のほうが優れているのだろうか。
または、

―――同時に、監視出来ない……?


しかし……

根拠に乏しいが、試してみるか。




なまえはモノクマに目を向けたまま、そのタイミングを見計らった。
そして素早く


「ちょっと!聞いてる!?」


なまえを見上げたモノクマは、気付かなかった。なまえがその背に、一つのDVDを隠し盗んだことに。
なまえは超高校級の手品師。その器用さ故に……こういったことは、得意なのだ。


「あーもう、判りましたよモノクマ先生。丁度お腹が空いた所なのでさっさと出て行きますよ。」


なまえは素早くそのDVDを腰のポーチに潜ませると、うんざりしたように宙を仰いだ。


「では失礼します」


なまえは出口へ向かった。
モノクマを避け
横を通り
そして、部屋を出る。


モノクマを背に食堂へ向かいながら―――なまえは、前を睨んでいた。


……モノクマはDVDを盗まれたことに気付かなかった。
幾ら器用であったとしても、僕の仕草は部屋に設置された監視カメラにしっかりと映っていた筈だ。


つまり黒幕は、
モノクマの操作と監視カメラによる観察
それらを同時に行えないのだ。



なまえは寄宿舎へ続く、階段へと足を掛けた。
そして










「―――ははっ」












押さえていた笑みを思わず零す。












「―――弱点を握る瞬間とは、この上なく愉快だ。」































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悪役みたいなことを言い出した。

なまえさんの勘が鋭過ぎて在り得なくらいですが、あり得ない位ないと全員脱出は無理かなと開き直って――いえ、すみません。ゴメンナサイ。

それにしても今回、ちょっと長いですね。申し訳ないです。早く色んなキャラを書きたいよ……

次回は時間軸が戻ります。
江ノ島と別れた後のシーンからですね。
つまり、ここの冒頭と繋がります。

        

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