散弾銃

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「ちょっと待った」


なまえはそう言って、突然立ち止まった。
繋いでいた手のほどけそうになった石丸は後ろへ引っ張られる姿勢で止まる。まるでリードを引っ張られた犬のようだ。石丸は突然の出来事に、クルリとなまえへ振り返った。


「いつまでこうしているつもり?まさか、このまま仲良くゴールなんてことは……ないよね?」


なまえはそう告げると、肩を竦めて繋がれた手を持ち上げた。ゴールとは、無論視聴覚室のことである。
そんな冷めた物言いに、石丸はグッと眉を上げた。


「仕方ないだろう!こうでもしないと君はまたどこかへふらふらと消えるではないか!」
「だからといってまるで園児の様に手を繋ぐ、なんていうのは僕の美徳に反するんだけど」


ん??と石丸の眉がゆがむ。理解が出来なかったのだろう。しかしなまえはこんな時までなまえは何を言っているのだろうか。しかし性格なので仕方がない。


「とにもかくにも、ふらふらと消えてしまっては困るのだ!」


ぎゅっと、石丸が再び手を握る。なまえはほんの微かに、息を詰まらせる。

「だから、僕の美徳に反するんだ。こんな稚拙な格好で登場なんてごめんだからね」

なまえは反逆として、石丸の両頬を片手で掴んだ。
石丸の口が蛸のように窄められる。


「し、しかし」
「精神的な気高さを持つ君ならば、少しはもっているだろう?“美徳”というものを」


なまえがにやりと誘導する。


「美と……?む……それではしかたがあるまい。ただし、必ず訪れるのだぞ。」


その瞬間、なまえはパッと手を離した。
―――ちょろい。
何だか崇高っぽそうな言葉に弱いらしい。石丸は条件を課したもののあっさり手を引いた。
その動作により、二人の間に風が通った。


「はいはい、約束するよ。じゃ、先に行っててね?」


なまえは半分目蓋を落しながらヘラリと笑うと、軽く手を振った。石丸はそんなゆるい動作に対しても、律儀に「うむ」と返しては敬礼し、踵を反して視聴覚室へと向かった。


「どこまで律儀なんだか」


なまえは肩を竦めて、階段を下りて行く石丸を見ていた。







***






「そろそろ事が収まったかな」

なまえは懐中時計を見ながら呟くと、パチンと閉じた。
何故その様な発言をしたかというと……面倒事に巻き込まれたくないからである。
なまえの考えによると……
まず石丸が全体を仕切って面倒なことになる。DVDはどうせ、ロクなものではない。その結果全員で何やら会話が交わされる。ざわつく。拡散する。
……というものらしかった。

なまえは不意に、腰のポーチを一撫でした。そこには、例のDVDが入っている。


「こんな面倒臭そうなもの、一人でゆっくり観たいからね」


なまえは少し背伸びをすると、階段を下りて視聴覚室へと向かった。





***





「ん……?」

なまえがふと眉間を寄せたのは、こちらへ向かってくる足音が聞こえたからだ。
走っている。ローファーのような音。そして……後ろにもう一人。これはスニーカーだろうか。


なまえが角を曲がった、その時―――






横を通り過ぎた
さらりと後ろに靡く、長髪。







「あ……」






声にならないような声が、小さな唇から洩れる。




なまえの瞳が、その人物の瞳が、まるでスローモーションのように、お互いを捉える。











舞園、さやか。










視線の交差した舞園は、微かに目を見開いている。


しかし―――





一瞬、きゅっと、唇が結ばれた。





そして、振り切る様に顔を伏せると、再び走り去る。




なまえは小さく口を開くが―――



「ま――「舞園さん!!」」



なまえが振り返ろうとした同時に、もう一人の人物がなまえを追い越した。必死な形相の、苗木だ。




なまえは吹き抜ける風に誘われるように、目で追った。
しかしその瞳に映るのは、大きく髪を揺らしている、舞園さやかの後ろ姿のみであった。














リン―――















あの不吉な“音(よかん)”が、脳裏で鳴った。

























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舞園さんはDVDを見終えた模様
さあ!お次も舞園さん編です




              

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