散弾銃

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舞園を追って苗木が駆け抜けてゆく。
なまえは一呼吸置いた後、その後をそっと追った。


舞園は教室へと駆けると、苗木もそれを追って教室へ入った。


「舞園さん!」


苗木が後ろ手で扉を閉めようとした瞬間、


「よっ」


なまえはその扉へ向けてコインを投げた。食堂で拾ったあのモノクマメダルだ。メダルはコロコロと転がって行っては失速し、倒れた瞬間に、扉と壁の間に挟まった。つまり、結果として扉にメダルが挟まって、そこにメダル分の隙間が出来た訳である。
さすが手品師、といったところだろうか。計算通りである。

なまえはそっと片膝をついてその場にかがむと、その隙間から舞園と苗木を見た。


「……盗み見なんて、本来趣味じゃないんだけどね」




***

「大丈夫……な訳ないじゃないですか……私達が……何をしたっていうの……?」

舞園は窮地に陥っていた。その口から出る声が、言葉たちが、そのことを物語っている。


「出してッ!今すぐここから出してよッ!!」


舞園は叫ぶ様に暴れた。


「……舞園さん!落ち着いて!!」

その両肩を、苗木が強く掴む。

なまえはス、と目を細めた。超高校級のアイドルとあろう者のその仮面は完全にはがれ落ちている。そこには純粋な”高校生”の、それもとびっきりの焦燥に駆られ、正気ではない表情があった。


相当参っているな、彼女。
なまえはそう思いながら、そっとポーチの中に盗んであるDVDを思った。


苗木は必死に、舞園に冷静になるようにと説得している。しかしそれは、


「まるで自分に言い聞かせているみたいだな」


となまえは思った。
しかし舞園は、苗木による気休めとも呼べる言葉たちを次々に否定してゆく。警察が来なかったら、助けなんてこなかった、逃げ道なんてなかったら、と。


「そ、その時は……ボクがキミをここから出してみせる!どんな事をしても、絶対にだよ!!」


その瞬間、はじけるように舞園は目を見開いた。そして苗木の思考が追いつくよりも早く、苗木の胸に飛び込んでいた。


「舞園……さん……?」
「お願い……助けて……」


切なる願い。
その声は、小さく震えている。


「どうして……こんな事になっちゃったの?殺すとか、殺されるとか……そんなの……もう耐えられない」


途切れ途切れに、震えた声を絞り出す彼女。苗木が彼女の名前を呼んだとき、彼女はようやく苗木の胸から顔を上げた。その瞳は大きく潤んでいる。


「さっきの言葉……信じても良いですか」
「えっ……?」
「苗木君が……私をここから出してくれるって言葉……どんなことをしても……絶対にって……」
「も、もちろんだよ……!」
「信じられるのは……苗木君だけなんです。だから……お願い……苗木君だけは……何があっても……ずっと私の味方でいて……」
「え……あ、当たり前じゃないか……!何があっても、ボク達は味方同士だって!だって、舞園さんは……ボクの助手じゃないか……」


舞園はしばし何かを考えていた。そして、ふと苗木を見る。


「苗木君、ありがとう。」


そこでなまえは、立ち上がった。舞園の表情が、少し正気を取り戻したようにみえたからだ。

正気――もしくは、狂気か。

なまえは教室に背を向けると、視聴覚室へと足を進める。
そして、先ほどの言葉を脳で反芻する。


”どんな事をしても、絶対にここから出してみせる”
”苗木君が、どんなことをしてもここから出してくれるって”
”苗木君だけは、何があってもずっと私の味方でいて”



これはまるで契約だ。
そして、こう言っているようじゃないか。

”お願い。私が生き残るために、死んで。そして、恨まないで。でもそれは、苗木君が望んだ事でしょ”







人は窮地に追いやられると、何をしでかすかわからない。
ただ、最も早急に捨てられるのは――――”道徳”。







なまえは片手で髪を払うと、視線だけで教室を流し見た。
そして、ふと口許で弧を描く。











「甘いんだよ。苗木、誠――」























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趣味じゃないといいつつ、がっつり盗み見たなまえさん。


    

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