散弾銃
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なまえが視聴覚室の扉を開くと、そこは異様な気配に満ちていた。
各々が真剣な表情を浮かべ、背筋が凍りついていることなど安易に読み取れる。緊迫した空気が視聴覚室いっぱいに満ちており、今にもはち切れそうだ。
視聴覚室のテーブルに、そのダンボールは置いてあった。無造作に蓋は閉じられており、そう何度も開閉された痕跡はない。
なまえは顔色こそ変えなかったが、神経の張り詰めた空間を刺激しないように、そっと扉を閉めた。石丸はなまえの姿を確認すると、動揺を押しこめるように一度軽く深呼吸をし、ツカツカとDVDの入ったダンボールへと歩み寄った。なまえもそこへと足を運ぶ。
「ふぅん。これが”動機”ね」
そこでなまえは周囲を見渡した。元にあった場所とは違う場所に置かれたヘッドホン。中には無造作に投げ出されているものもある。
皆観たんだ、このDVD。
なまえは容易に読み取った。
「石丸はまだ観ていないんだね」
ズバリと言い当てられ、石丸は目を丸くした。
「あ、ああ。全員が来るまで観るのは予想と提案したんだが……」
そこまで言って、しょぼくれる石丸。
皆言う事を聞かなかったんだな、となまえは苦笑した。
無理もないだろう。こんな異様な環境に放り込まれ、”殺人の動機”と提供されてしまっては、「観たい」という感情の方が理性に勝るのも致し方ない。
「まあ、いいさ。それよりも一応観ておく?」
「そう、だな。しかし……」
石丸は戸惑った表情で、隣のなまえを見下ろした。
「なまえ君のDVDだけが、見当たらないのだが……」
当然である。なまえのDVDは今、なまえの腰にあるポーチに入っている。朝食会の前に、なまえが盗んでいたのだ。しかしなまえは素知らぬ顔で
「そんなことはないよ?」
と嘯いた。
ケロッとした口調に、石丸は驚いたように息を詰まらせた。
なまえはス、と目を半分閉じると、形の良い唇に微笑を浮かべた。
「――ほら、ここ。」
なまえは段ボールに一瞬ハンカチをかぶせたかと思うと、次の瞬間にはDVDを持っていた。
なまえの名前が記されているDVD。
まるで手品の様だった。
何故、わざわざこのような出し方をするのかというと、自分のDVDを盗んだことを、モノクマにみられては後々面倒だからだ。つまり、手品のフリをして誤魔化したのである。
しかしそんな事を知りえないであろう石丸は、グッと眉を上げると「まったく君という奴は……!こんな時でさえふざけるのかね!」と叱咤した。しかし「まあ、お見事ですわね」と呑気な口調で言ったセレスに、もどかしそうに口を噤んだ。
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「ふぅん……」
DVDを見終えたなまえは、特に取り乱す様子もなく、そっとヘッドホンを置いた。
内容は至極単調なものだった。
なまえの属している”ある組織”の数々の拠点が、ずたずたに荒らされた後の映像が流れるというものだ。
しかしなまえは少しも動揺を見せなかった。
なぜならそこには、”ある場所”だけが移っていない。それどころか、組織の人間は一人も映っていなかったからだ。ただし、”フェイク”の人間が倒れている姿は数名映っていた。ただし、その”フェイク”は表面的には「裏でつながっている人間」ということになっているが、真の繋がりは無い連中だった。
謎の学園長、モノクマ。
その程度の情報しか収集できないのか。
なまえは密かに、そんな感想を持つ。
大胆なゲームを行う割に、そう大きな組織が動いているわけではなさそうだね。
なんて稚拙なのだろう。と
なまえはカメラに映らないよう俯きながら……口許を、つり上げた。
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どうやらなまえさんは手品師として以外の活動をしているらしく、何かの組織に属しているらしい、ということがぼんやりと判明しましたね。
これまでのどこか影のある言動に、うすうす感づいている方も多いと思いますけどね。
小動物的な可愛らしさを持ち、弱々しくとも正義感が強い。
そんなヒロインちゃんが恋しいですね。はい。
だれか書いて下さ(略