散弾銃

□02
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でもまあ、

となまえは画面を見つめたまま思う。

一芝居、打っておくか。


「そんな……」


なまえは表情という表情をそぎ落とし、顔面蒼白にして少しよろけた。
それは誰が見ても芝居にはみえなかった。さらに言えば、普段落ち着いている”あの”なまえがよろけたのだから、その動揺たるやより真実味が増していた。
……全て、”嘘”であるのだが。


「なるほどね……これが、あいつの言っていた”動機”の意味」


霧切は思案顔で、ぽつりと呟いた。
なまえは横目で霧切を見る。


「私達の”出たいという気持ち”を煽って、殺し合いをさせようとしているのね……」


なまえは思案顔で続ける霧切を、そっと観察した。そして


――彼女は理性的で、頭の回転が速い。


そんな感想を抱いた。
なまえは顔面を蒼白にさせていたが、徐々に通常の表情に戻していった。
動揺した姿を、画面越しの黒幕に見せ続けるのも不自然だろうと思ったからだ。


「まるで囚人のジレンマ、だね」


なまえはわざと口にした。
……おのおのの状況で頭がいっぱいであろう皆の視線を集め、皆の考えを束ねるために。


「あら、わたくしも丁度同じ事を思っていたところですわ。」


セレスがなまえへ視線を投じる。そして、顎に手を添えると、斜め上を見上げた。


「例えば、軍事開発に置き換えて考えてみましょう。A国とB国は平和維持を望み、ともに軍事開発を止めようと考えています。ですが、相手国に裏切られ、さらなる軍事開発を進める恐怖に耐えきれず……結果、双方とも軍事開発を推し進めていってしまい、互いに裏切り合う結末を迎える。つまり、見えない裏切りの恐怖こそが、均衡状態の最大の敵となるのです。」


「どちらも軍事開発をやめてしまう事こそが、互いにとって本当に有益なのにね。」となまえは心の中で思う。故の”ジレンマ”なのだろうけど。


「い、今の……あたし達みたいって事ね……」


腐川が忌々しげな表情を浮かべる。


「口では……協力なんて言いつつ……心の中では……誰かが裏切る恐怖に怯えてる……」


その言葉に、石丸が焦燥感に駆られて反論する。


「だ、だが、変な考えを起こすんじゃないぞ。それこそ黒幕の思う壺――」


その言葉は、突然遮られた。
――なまえが、石丸の胸倉を掴んだのだ。


「そう扇情的になるなよ。それこそが、黒幕の術中にはまるってものさ」


なまえはそっと、耳打ちした。
その表情は涼しく、凜としている。

それを見ていた大神が、目を伏せて腕を組む。


「うむ……感情的になって争う事こそ、黒幕の狙いだとわからんのか?」
「そ、そうだよ……冷静にならないと……」


不二咲が弱々しく、同意する。

なまえは……そういった議論にあまり耳を傾けていなかった。それどころか








「モノクマッ!」







突然、モノクマの名を呼んだ。
その突拍子も無い行動に、そこにいた全員がなまえを見た。
そしてどこからともなく現れたモノクマに、そこにいたうちの数名が凍てつく。



「な……君、いったいどういうつもりなんだ……?」


固まった石丸を、「いいから」とよけると、なまえはモノクマへと近づいた。
モノクマは丸い手で後頭部を搔く。


「かわいい生徒に呼ばれちゃったら飛び出さずにはいられじゃないじゃない。だってボクは学園長。そう、学園長!あのね、なまえ君、君は生徒でありながら学園長の扱いが荒いと思うのです!先生悲しい!!」


ガオー!と両手を挙げて爪を立てるモノクマ。なまえはその目の前まで来ると、「ねえ」と口を開いた。






「このDVDに映っている光景は、全部偽物なんじゃないのか?」






その言葉に、全員が「え?」と動揺する。
しかしなまえは続ける。


「モノクマが言っている事は全て出鱈目のでっち上げなんじゃないか?」


モノクマは耳に手を添えながら「え?何?」と聞き返す。



「全部戯言で、虚言に満ちている。つまりは嘘なんじゃないのか?」
「嘘?それってボクがウソツキってこと?嘘吐きじゃないよ!!ボクは正真正銘の正直者だよ!!」


モノクマは両手で口を押さえながら、うぷぷ、と笑い声を漏らした。


「信じたくない光景が映っていたから、そう思いたいよね。だけどね、残念ながら……これは全部、本物の光景なんだよ!!」


モノクマは断言した。
その言葉に、「このDVDは偽物かもしれない」とかすかな希望を抱いていた人々が絶望する。


「いいねえ、いいねえ……その絶望的な表情!じゃあね!」と残して、モノクマは消えた。


「……」


なまえは先ほどまでモノクマが立っていた地面を見下ろす。





――モノクマ。君は気付いているのか、はたまた気付いていないのか。
その言葉が本物なら……


君は僕達に、数々のヒントを与えていることになるんだ。


僕の属する組織は裏社会の中でも極秘の集団。政府にも絡んでいる。
しかしそれが、あのDVDのような有様になっている。つまり――

”外の世界は混沌としていて、警察や政府も動けないほどに無秩序だ”ということ。

そう、ヒントを与えている事になる。
僕達が知り得ない、外の世界の事をね……














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ククク、と悪魔も顔も顔負けの笑顔をしていそうななまえさん。



      

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