漆黒のキセキ
□不良少年の傷跡
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ガララ、
保健室のドアを開けて中に入る。
消毒液の独特の匂いが鼻を突いて、顔をしかめた。
くそっ、イテーな。あの野郎、思いっきり殴りやがった。
数十分前の出来事にイライラしていると、ふと後ろに気配を感じて振り返る。
「っなんだよお前!」
「いや、午後の授業が始まったばかりなのに、保健室に入ってく人が見えたから、またサボリなのかなーと思ったけど、」
どうやらサボリではなさそうだね。
僅かに眉を寄せたソイツは、白い肌が黒髪に映える、綺麗な女だった。
おいおい、こんな奴一年にいたか?見逃していたとなると、俺の見る目も落ちたな。
「まあいいや、そこ座りなよ」
すると制服の裾を掴んで、クイクイと椅子に促されて仕方なく腰掛ける。
「おい、何してんだよ」
「何って......手当て?」
首を傾げて不思議そうにする顔は、「それ以外に何がある」と言いたげだ。
「片手でできるくらい器用なら、話は別だけど、どうする?」
ズキズキと痛む左腕は、袖をめくると青く変色していて、目で見るだけでも痛いぐらいだ。
ちっ、頼むのは義理じゃねーが仕方ねぇ。
「...頼む」
「いいですよ」
配置を知っているのか、近くの棚から湿布を取り出した女は、備え付けられた水道の水でハンカチを濡らすと、ゆっくりと俺の腕を拭い始めた。
「見たところは打撲みたいだけど、切り傷もあったら手当ての仕方が変わってくるから、とりあえず汚れを落としとくんだよ」
訝しげに眉を寄せた俺の視線に気付いたのか、目は手元に向けたまま教わる説明に少なからず感嘆する。
中学生でそこまで詳しいことを知ってる奴は珍しい。
親が病院経営してるらしいアイツはともかく、この女は恐らくそうじゃない。
「よし、切り傷もないしこれなら湿布だけで良さそうだね」
ピリッと湿布を取り出しながら息を吐いた女は、手際よく患部に湿布を貼ると、ご丁寧に包帯まで巻いていた。
「うし、サンキューな」
俺のことは知っているのか否か。
知っていなかったとしても随分な物好きに内心呆れつつも礼だけは言っておく。
それから立ち上がろうとした俺は、椅子から腰を上げる暇もなく「待って」と咎めるような声音に再び視線を女に向けた。
「ここにも傷がある」
そう言ってソイツは、俺の両手を労るように包んだ。
まるで、壊れ物でも扱うみたいに。