× Butterfly

□自覚アリでしょ?
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怜と別れた渚は走って階段を上り自室へ勢いよく飛び込む。
荷物を置いてTシャツに着替え、少し考えてからもう一度服を脱ぎ風呂場へ駆け込んだ。
シャワーの水に肩を打たれながら怜のことを考える。
自然とにやける顔を両手でぎゅぅぅ…っと挟み思いっきり頭を振って外へ出た。
家は遠くはないが少しでも速く迎えに行きたかったから自転車に跨る。
濡れた髪が風に撫でられて心地良かった。
赤信号にすらイライラして、相手の信号が赤になった途端飛び出す始末だ。
それでも渚が怜の家の前に着いたとき、そこにはすでに長いこと待たされていた怜が眼鏡を抑えて立っていた。

「…遅いですね」
「ご、ごめん怜ちゃん…っはぁ……怒ってる?」
「激おこぷんぷん…スティック……ドリームです」
「激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム?怜ちゃん短気ー」

おかしそうにクスクス笑う渚を咳払いひとつで黙らせた怜は照れ隠しなのか渚に背を向けて「行きましょう」と呟いた。
渚は大袈裟に肩を竦めると、自転車を方向転換させて怜の横に立つ。

「後ろに乗る?」
「はい?」
「後ろ。しっかり摑まってれば大丈夫だよ」
「自転車の二人乗りは法律で禁止されています。僕は横を走るので渚くんだけ乗ってください」
「えー、そんなの嫌だよ。ほら乗って!掴まった?行くよ!」
「ちょっと…っ渚くん!」

強引に後ろへ乗せられた怜は慌てて渚のTシャツに掴まった。
自転車は最初びっくりしたように大きな音をたてて軋んだが、走り出すと静かになって二人の青年を乗せて走った。
風になびく渚の髪からシャンプーの甘い香りが漂ってきて怜の鼻孔をくすぐる。
渚がシャワーを浴びてきたのだと気づいたはいいが何故わざわざそんなことをしたのかわからなかった怜は首を傾げただけでまたまっすぐ前に向き直った。
自転車が止まり渚が振り返る。
怜が飛び降りると渚は早業で自転車を仕舞って玄関の扉を開けた。

「どうぞー。ようこそ怜ちゃん!」
「お邪魔します」
「あっ、靴脱いだらそこの階段上がって一番奥の部屋で待ってて!僕門閉めてくるの忘れちゃったから、すぐ行く!」
「あ、はい…」

玄関にひとり取り残された怜はポツンとそこに突っ立ったまま辺りを見回す。
渚の家なのだから当たり前といえば当たり前なのだが、家中が渚の匂いに包まれていてなんだか不思議な気持ちになった。
言われた階段を下から見上げる。
上で待ってろとは言われたものの主人がいない家をずかずかと歩き回るのは気が引けたので下から二段目の段に腰を下ろして待っていることにした。
門を閉めるだけにしては長いと思っていたら外から話し声が聞こえてくるのに気が付く。
おそらく近所のおばさんにでも会ったのだろう。
「渚ちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。
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