× Butterfly

□自覚アリでしょ?
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家に入ってきた渚は、階段のところで玄関を睨みつけるようにして座っている怜を見て驚いた。
謝りながら靴を脱いで駆け寄る。

「あれ、どうしたの?部屋わかんなかった?」
「いえ、ひとりで渚くんの部屋に入るのは悪い気がしたので」
「誰も僕の部屋だなんて言ってないよ」
「っ…」
「僕の部屋だけどさ」

何が理由かはわからなかったが勝手に渚の部屋だと思い込んだ自分が恥ずかしくて怜は下を向いた。
結局は当たっていたわけなのだが、妙に渚を意識している自分に気付いて相手の顔を見ることができない。
そんな怜の様子をキョトンとした目で見つめていた渚は彼の肩を軽く叩いて上の部屋へ促した。
渚の部屋は彼の性格からは到底想像できないほど整頓されていた。
無論この日のために一生懸命掃除をした賜物だったが怜は素直に感心している。
見たとおり整理整頓が苦手な渚の部屋はいつも汚い。
しかし怜が泊まりにくるとなると話は別だった。
三日も前から片付け始め、またすぐに散らかってしまうのを恐れた渚が今日にこだわったのもこれが理由だ。

「どう?思ってたよりきれいでしょ?」
「はい…そろそろ眼鏡を買い替えようかと思いました」
「あっはは、そんなにー?」

伸び上がって取り上げた怜の眼鏡をかけ、渚は嬉しそうに大きく笑った。
怜は怒りながらも渚の笑顔につられるようにして小さく笑うと、はしゃぎ疲れてぼふんっとベッドに勢いよく座った渚の隣に静かに腰を下ろした。
渚の顔からそっと眼鏡を外して自分でかける。

「このあとお風呂だけど、怜ちゃん一緒に入る?」
「…入りません」
「えー、じゃあ先に入っておいでよ。僕絶対覗いたりなんかしないからさ!」
「そうですか、じゃあ念のために鍵だけかけておきますね」
「そんなのズルいよ!絶対見れないじゃん!」
「はい、絶対見ないでください」

別に見られても構わないが怜は何度も念を押したうえに言った通りしっかりと鍵をかけて風呂に入った。
渚はしばらく風呂場のドアの前で落ち着きなく行ったり来たりを繰り返していたが、急に何かを思い出したように立ち止まるとさっとその場からいなくなった。
台所へ行き冷蔵庫から烏龍茶を取り出してコップに注ぐ。
それを二本持って自室に上がり、机の上に置くと着替えを持って降りてきた。
風呂からあがった怜にお茶があると伝えて自分も急いでシャワーを浴びる。
机の上に仲良く並んだお茶のコップのひとつを手に取り、怜はそれを一気に飲み干した。
渚のちょっとした気遣いに自然と上がる口角からお茶が零れ出る。
あれ、と思ったときにはもう遅く、怜の体は散々ふらふらと部屋の中を彷徨ったあと顔からベッドに突っ伏した。
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