× Shark

□ロマンチスト・ラバーズ・クリスマス
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12月24日朝の6時半、新幹線の中。
窓際が好きだと言う凛を先に座らせた遙は隣に腰を下ろして鞄からガイドブックを取り出し凛の膝に置いた。
途端に顔を輝かせて表紙を捲り、ふたりの間に本を置く凛を満足げに見る。
楽しそうに写真を指さしては次はどこだと話す無邪気な姿に頬を緩ませながら聞いていた遙が、地図を眺めていた目をページへ逸らし、凛の言葉を遮った。

「凛、それならさっきの大雷山をここに入れた方が効率的だぞ」
「は…?あ、違えよ。それはファストパスだけだっつーの。俺がまずハチミツ探しに走るからその間にハルが大雷山行ってくれれば…」
「嫌だ、いちばん奥じゃん。疲れる」
「ったく、仕方ねえな。じゃあ俺がそっち行くからハルがハチミツな」
「……携帯忘れた」
「は、お前馬鹿か?昨日の夜メールしたよな?」
「さあ…」

呆れた、と言って大きく溜め息を吐いた凛にすまなさそうな顔をして肩を落とした遙はそのまま下を向いて目を閉じる。
朝が早いからと思って昨日の夜は9時に寝たのに、どういうわけか一睡もできず気が付いたら起きる時間になっていた。
今になって襲ってきた睡魔に少しばかり苛立ちながら、それでも逆らわずに身を委ねる。

「ハル?」
「んー…?」
「寝んのか?」
「うん……昨日の夜、眠れなかったから」
「お子様か。眠れねえときはホットミルクを飲むとちゃんと眠くなるぜ」
「お子様だな」
「なんだと、ハルには言われたくねえよ。つか頭!やめろって、寝てもいいけど寄りかかんな、ここ電車ん中だぞ」
「いいじゃん、誰も見てないし」
「良くねえって、本もシワになる……っあ、」

右手の人差し指にピリッとした痛みが走った。
乾燥した指先から赤い血が滲み出てきて小さな玉を作る。
動きを止めた凛を不思議に思った遙が身を乗り出しすと、咄嗟に手を引っ込めて隠そうとした。

「どうした?」
「っ、何でもねえ」
「血が出てる。紙で切った?待ってろ、絆創膏あるから」
「おう…」

携帯はないのに絆創膏はあるのか、と遙の鞄を横から眺めていた凛の目がある一点に集中する。
青くて薄っぺらくて四角いアレは…

「おいハル、」
「はい、絆創膏。貼ってやろうか?」
「いっ、いい、自分でやる」

引ったくるようにして絆創膏を受け取り怪我の位置もろくに確認せず指に巻きつける。
今の携帯だよな、とか思いながら上の空で貼り終わって、そのとき初めて渡されたそれがネズミ柄だったことに気が付いた。
文句を言おうかとも思ったが、隣の遙は既に規則正しい呼吸を繰り返していたから、凛は諦めて窓の外の景色に目を向けた。
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