× Grampus

□だから俺はお前がいい
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俺は、何をしているんだろう?
遙は一人で髪を乾かしながら考えた。
そりゃあ端から見たら濡れた髪を乾かしているだけだが、彼の頭の中はぼんやりとフル回転していた。
考えなくてはいけないことはわかっているのに、それを考えようとすると何からどう手をつければいいのかわからない。
数十分前に風呂場で起こったことを思い返す。
いつものように水風呂を張って沈んでいたら真琴がやってきた。
また水風呂に入っているのかと半ば呆れながら、「いくら夏でも風邪ひくよ」と言って差し出された手を掴んだところまではよかった。
いま考えても本当にわからないが、彼の手を握った瞬間胸に訳のわからない衝動が起こり、その手を強く引いて身体を引き寄せ、気が付いたら唇が重なっていた。
真琴は驚いてしばらく目を瞬かせながら遙を見つめていたが、遙は遙で自分のしたことに驚いて黙っていたので、彼は曖昧な笑みを残して帰ってしまった。
人差し指を立てて唇をなぞってみる。
そこには確かに、真琴の唇の乾いた感触が残っていた。
頭をすっきりさせるためにジョギングでもしてこようと立ち上がる。
靴を履いて玄関のドアに手をかけたちょうどそのとき、間の抜けたインターホンが家中に響き渡った。
遙は弾かれたようにそのままドアを勢いよく押し開けた。
彼の目は瞬時に背の高い茶髪頭を探したが、門の前に立っていたのは双子の妹弟たちだけだった。

「どうした?」
「あ、ハルちゃん。お兄ちゃん、来てない?」
「真琴?帰ってないのか?」
「うん、ハルちゃん家に行くって言ってたから迎えに行って来いってお母さんに言われたんだけど」
「…俺が探してくる。家で待ってろ」
「ハルちゃん家で?」
「いや…自分の家で待ってろ」
「はーい」

仲良く手を繋いだ彼女らが家に帰るのを確認して、もう一度家に引き返す。
携帯を手に取り電話をかけてみたが、何度かけてみても留守電のアナウンスが流れるだけだった。
遙自身ジョギングに置いて行こうとしていた身だ。
ましてや向かいの家に行くだけで真琴が携帯を持ち歩くはずがなかった。
しかしそうなると本当にどこへ行ったのかわからない。
真琴の行動範囲なんて、学校と遙の家と自分の家、あとたまにおつかいで行くスーパーくらいだ。
頭の中に彼の姿を思い描いて、行きそうな場所を探ってみる。
朝、玄関を出ると最初に目に入ってくる爽やかな笑顔。
下校中にみせる間抜けな表情。
プールを見つめる真剣な眼差し。
裏口から入ってくるときの遠慮がちな顔。

「裏口…」

さっ、と視線を走らせる。
なぜもっとはやく気が付かなかったのか。
うすい扉の向こうには、たしかに真琴の気配を感じた。
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