× Shark

□そばにいるよ
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夕方から降り続けている雨は、夜中になっていよいよ強く地面を叩いた。
ベッドで眠る凛の眉がピクリと寄る。
薄く開かれた眼が枕元の時計に向けられた。
午前0時14分。
眠れなかった。
雨は嫌いだ、と音のない声で呟く。
凛の中には雨が降った日に良い事が起こった記憶がない。
特別な思い出といえば悪いものばかりだった。
軽く頭痛のする眉間を抑えて起き上がりふらふらとした足取りで部屋のドアへ向かう。
そこで何かに気が付いたように立ち止まるとジャージを羽織ってそのポケットに携帯を押し込んだ。
上段の似鳥が寝返りを打ったのにチラリと視線を寄越す。
凛は小さく溜め息をつくと不機嫌そうな顔をしたまま部屋の外へ出ていった。
終電に乗り込みドアの横に立ってぼんやりと流れる景色を眺める。
その車両には凛の他には誰もおらず、だからその場に崩れるようにして座り込んでしまっても誰かに何かを言われることはなかった。
適当な駅で電車を降りる。
無意識ではあったが本能がそうさせたのか、彼が立っていたのはよく知った駅だった。
自分の身体が勝手にぬくもりを求めていることに気付き自嘲じみた笑いがこぼれる。
見慣れた懐かしい景色の中を雨に濡れながら歩いた。
右手に見えてきた家の前で立ち止まりそっとその表札を指でなぞる。
そしてまた今度は大きな息を勢い良く吐くと家の壁に寄りかかって携帯を開いた。
静かな雨音の中に微かな着信音が響き渡る。
背後の二階の窓が驚いたようにゆれたような気がした。
受話器を押し当てた耳に全神経を集中させる。
突然鳴り響いた携帯を慌てて止めようと手を伸ばした真琴は液晶の表示を見て一瞬固まった。
眠い目を擦ってもう一度よく見る。
それから漸く着信を取ると、不思議そうな顔をして首を傾げた。
凛の耳に間延びした声が届く。

「――もしもし?」
「あ、えっと…悪いな、こんな夜中に」
「凛?えーっと…どうかした?」
「いや…なんでも。寝てたよな、ごめん……じゃあ」
「え、ちょ、待ってよ。眠れないの?あれ?っていうか今どこ?外にいるの?」
「あー…うん、まあな……お前ん家の前」
「え?わ、わかった。じゃあ今すぐ降りていくからちょっと待ってて。あ、服着るから2分くらい待ってて、ごめんね」

返事を待たずに切られた電話に向かい「どんな格好で寝てたんだ」と呆れたように呟く。真琴の声を聴いて少なからず心に余裕ができたことに気が付き勝手に熱くなる顔を両手で挟んだ。
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