× Shark

□ロマンチスト・ラバーズ・クリスマス
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冬休みとは、一体誰のためにあるのだろうか。
そもそも何のためにあるのだろうか。
年末年始の一週間では物足りずに、さらにもう一週間休みにすることに何の意味があるのだろうか。
学校はその間、生徒たちに何を求めているのだろうか。
長い長い終業式が終わり、遙はひとりで帰路についていた。
ほとんどのクラスメイトが年内最後の部活を楽しむなか、今日の水泳部は陸トレもお休み。
真琴はインフルエンザでダウンしていて、渚は数学の補習だとか言っていた。
怜に至っては補習の補習を渚に頼まれる始末だ。
冬独特のからりと乾いた晴れ空を見上げて白い息を吐く。
家の前の石段を上がるときにふと橘家の二階に目をやると、ちょうど外を眺めていた真琴と目が合った。
「ハル!」と叫んだ真琴が慌てて窓を開け放つ。

「どうした?もう大丈夫なのか?」
「うん、おかげさまでなんとか。それよりさ、ハル」
「ん?」
「蓮がゲーセンで夢の国のペアチケットを穫ってきたんだけど、うちから二人を選出するのは難しいから、ハルいらない?」
「いらないって…?」

『一緒に行かない?』ならまだしめ『いらない?』と聞かれた遙はどうしたらいいのかわからず戸惑った。
確かに蓮が行くなら蘭も行きたいと言うだろうし、しかし小学三年生が鳥取から首都圏へとなると無理がある。
真琴がついていこうとすると蓮か蘭が留守番決定だ。
橘家にペアチケットの需要がないことは理解できたが、今日もこうしてひとりの遙にはもっと縁がない。
二回行けってか、と馬鹿なことを考えてはっとした。

「…凛と行けってこと?」
「そうそう、ちょうどクリスマスのシーズンだろ?いつもとは一味違うおでかけなんて良くない?」
「余計なお世話、」
「凛ああ見えて昔からロマンチストだから、案外喜ぶんじゃないかと思ってさ」
「…使わないなら貰っておく」

遙の答えに「うん、じゃあ後で持ってくね」と笑った真琴から目を逸らし、背中を向けて駆け足で家へ飛び込む。
窓と玄関の閉まる音が綺麗にぴったり重なった。
机の隅に放置された携帯を取り上げてアドレス帳を開く。
コールは3回まで、それ以上は待たないと決めて電話をかけたら1コール目で繋がった。

「あ?なんだよ、ハル」
「凛…っ、あの……」
「なに?聞こえねえ」
「まだ何も言ってない」
「早く言えよ」
「クリスマス、空いてるか?」
「クリスマスって…24?あ、25?」
「どっちでもいい」
「待てよ……ああ、両方空いてるけど」
「海と陸、どっちがいい?」
「は?何の話?つか海って寒くね」
「じゃあランドだな」
「あ、あぁ、夢の国のことか?」
「うん、真琴がペアチケットくれるって」
「マジっ…か、ふーん……」

思わず叫びそうになった凛は素直に喜んでいる自分が恥ずかしくなって慌てて素っ気ない返事をした。
クリスマス、ハルと、夢の国。
頭の中で反芻し、勝手に上がるテンションをなんとか抑える。
不自然な濁りと間は、電話を切るまで続いた。
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