× Shark

□ロマンチストはキスをしない
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「っあ、ま…こと、も、でる…っイ、」
「ん、いいよ…りん……」

身体中がぞくぞくして、這い上がる絶頂感に堪らずぐっと背を仰け反らせた。
快感で白く霞む視界の隅からそっと真琴の顔が近付いてくる。
キスされるんだ、そう思ったと同時に凛はほぼ無意識に顔を背けて口元を手の甲で覆っていた。
一瞬傷付いたように目を見開いた真琴が見えたが、気付かないふりをして固く目を瞑る。
次の瞬間には張り詰めていた熱が放たれ、イク直前の些細な感情のブレなどすっかりどこかへ吹き飛んでいた。
肩で息をする凛の横にドサリと倒れ込んだ真琴が深い溜め息をつく。
照明にかざした右手を額に乗せて、前髪を掻き上げるように少しだけ動かした。
隣に寝転ぶ凛からは、右肘と鼻と口しか見えない。

「…なあ、凛」
「ん?」
「凛はさ、なんで…キスしないの?」
「は…?なんでって、何が?」
「だってさ、だってだよ?俺たち一応恋人同士なんだし、身体の関係もあるのに、一度もキスしたことないんだよ?」
「…別に、しなきゃいけないわけじゃねえし……」
「そう、したくないんだよね、凛は。さっきも嫌がったし…なんで?」
「……なんででもいいだろ。でもまあ…真琴とキスするのは難しいかもな」

天井をじっと見つめていた真琴の目がちらりと凛の方へ向けられた。
キスすることが難しい、と言った言葉の意味もわからなかったが、それ以上にキスをしたくないということが否定されなかったことに対して一種の動揺を覚えたのだ。
大きく息を吸い込んだが先に続く言葉が見つからずそのまま曖昧な吐息を漏らす。
右腕を頭の下に敷いて凛の方へ寝返りを打つと、それまでじっと真琴のことを見つめていた赤い瞳とぶつかった。
ふい、とさり気なく逸らされた視線がしばらく布団の上を泳いだあと再び遠慮がちに合わせられる。
真琴が困ったように眉を下げて笑いかけると凛は悔しそうに下唇を噛んで眉を寄せた。

「許してくれないわけじゃないんでしょ?」
「許すって…?」
「身体は許してくれてるけど心は許してくれてなくて、せめて唇だけは、ってことなのかなと思って」
「っ、はあ?俺がそんな中途半端な気持ちでいつも抱かれてるなんて本気で思ってんのか?」
「思ってない、ごめん」

ぶしつけな台詞に思わず怒気を含んだ声で叫ぶように言葉を吐き出した凛も、小さく溜め息をついて「悪い」と呟く。
その気まずそうな傷付いた顔が見たくなくて、真琴は黙って腕を伸ばし凛の身体を抱き寄せた。
胸元に抱え込んだ頭を何度も何度も撫で付けながら、天井の隅をじっと見つめる。
考えちゃいけない、そう自分に言い聞かせて思考回路を遮断するように無理やり目を閉じた。
動揺を隠し切れなかった心音にしばらく耳を澄ませていた凛も、静かに目を瞑ってゆっくりと息を吐く。
情事後の倦怠感も手伝っていつの間にか眠ってしまった真琴の手が止まり、それまでじっと頭を撫でられていた凛は少し顔を上げてその緩く閉ざされた唇を見つめると苦しそうに眉を寄せてまた胸元に顔をうずめた。
キスをしないことに大した理由なんてないくせに、つい意地を張ってしまう自分に苛立ちを覚えながら力いっぱい顔を押し付けると、真琴の身体は一瞬戸惑ったように縮こまったが次の瞬間には凛を抱く力が強くなっていた。
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