× Butterfly

□自覚アリでしょ?
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怜の足はしきりに動いていた。
四足が上手に着地していない机がカタカタと小刻みに震える。
ペンを持った手で頬杖をつき、顔はぼんやりと上の空。
だから先生にあてられたときも、すぐには反応できなかった。

「次、じゃあ――竜ヶ崎」
「…え、あ、はい。えっと…」
「問5の答えだ」
「…y=9x+13です」
「完璧だ。ちゃんと授業聞いてろよ」
「すみません…」

急に名前を呼ばれてまだドキドキしている胸をひと撫でする。
ほっと安心して息をつくと前の方の席からこちらを振り返っているやつと目が合った。
渚である。
渚は不思議そうな顔をして怜の方を見ていたが、目が合うと嬉しそうにニコリと笑った。
それに対する怜の反応はあまりにも薄く、ほぼスルーをかまされた渚は一度ウインクをして向き直る。
怜の目が再びちらりと渚に向けられた。
すでに彼は体勢を整え終わっていて、黒板の文字をひたすらノートに書き写している。
怜は小さく溜息をつくと、自分もやっとルーズリーフを一枚取り出して板書をはじめた。
そもそもなぜ、と考える。
授業中に集中が飛ぶことなど今までにあっただろうか。
少なくとも小学校三年生くらいからこっちは一度もなかった。
それもこれもすべて渚の所為。
真昼間の窓際席で、お昼を食べながら何気なく渚の話に耳を傾けていると、彼は突然「今日は僕の家に泊まりにおいでよ!」などとのたまったのだった。
突拍子もない提案に一瞬ぽかんと固まった怜だが、すぐにまた我に返って靴にウインナーを放り込み相手の言葉を拒絶した。
だいたい人の家などに泊まりに行くと、そこの家の人にも気を遣わせるし自分も気を遣うから疲れてしまって仕方がない。
やっと布団に入ってさあ遊ぼうという頃には身体はくたくたでいつも友達にがっかりさせてきた。

「…だから今回は遠慮しておきます」
「えー、大丈夫だよ。僕、怜ちゃんと一緒にお風呂入ったり寝たりしたいなー」
「それなら尚更行きません」
「ちぇっ、まあ考えといてよ。また後で聞きに来るからさ」

そう言ってイタズラっぽく笑った渚に、怜はもう言い返すことも諦め黙って残りの弁当をたいらげた。
別に心底イヤというわけでもなければ外泊してはいけないという決まりがあるわけでもない。
渚もそんな怜の気持ちがわかっているのか、なんとか彼をなびかせようと何度も何度も食い下がった。
放課後になって部活のない彼らは鞄を持って立ち上がる。
怜の席にやってきた渚が机に手をついてまたしても彼を説得しはじめた。
あと少し、もうちょっと押せばきっと頷く。

「ね、怜ちゃん!どお?早く帰って着替え持って来なきゃ!」
「うーん…」
「ほら早く!」
「じゃあ…そうしましょうか」
「やったあ!さすが怜ちゃん!」

何がさすがなのか知らないが、満面の笑みで喜ぶ渚に怜は呆れ半分の笑顔を見せた。
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