□君と僕とあの人と………
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火神は頬を掻きながら、居心地悪そうに呟いた。


「…………………彼女とかいた事……あるのか?」


「…………喧嘩売ってます?買いますよ、いいんですね?」


「いや、チゲェから!? ただ………」


言い淀む火神に黒子はため息を吐き、2号を抱いたまま近付いていった。
一応脅す目的の為ということもあるが……。


「黄瀬君はまだしも、僕に彼女がいた事はありません。
 桃井さんへのアレは、火神君のデリカシーが欠如しているだけです」


「そうなのか? ……………って、おい、待て黒子!
 先輩たちもアレには驚いてたんだぞ?!
 それに、オレの言いたいこと分かってんだったら、いw…………」


「僕も火神君に質問があります。 答えてくださいよ」


有無を言わせない口調で黒子が被せてきた。


「氷室さんが、火神君の兄貴分だと言うのは分かりました。
 何かあのお話意外で、あったんですか? ただならぬ空気でしたよ、2人とも」


「それは、あr…………」


「まさか紫原君のチームメイトだとは思いませんでした」


「…………」


火神は何故黒子が、イライラしているのかは分からない。
だが、きっと自分が口にした質問の所為だろう。


「変な質問して悪かったな」


「何検討違いなことを……」


「違うのか?」


足元に下ろした2号にまで呆れられたような気がした。
事実、ため息のような鳴き声が聞こえたし。


「…………自分で考えて下さい。 氷室さんのこと」


「……?」


こんな事を言っては見るが、端から期待はしていない。
火神が理解できる日は来ないだろうから。


「君こそ………氷室さんと何かあったんじゃないんですか?」


「はぁ? ねーよ、んなもん」


「そうですか? にしても………」


尚も言い募ろうとする黒子だったが、呆けた顔の火神を見てやめた。
これ以上言っていたって、不毛でしかない。
火神がそれに気付くのはもっと先、もしかしたら永遠に来ないかもしれないのだから。

フイっと火神の方から顔を逸らし、バスケットボールを手に取った。
消えるドライブを早く完成させなければいけない。
それの方が先決だ。 火神のことなんか気にしていられない。


黙々と練習している黒子を見て、火神は眉を顰めた。
黒子が怒ったのは、アレの所為かもしれない。
検討がようやくついたのか、火神は2号を伴って黒子の元に足を向けた。


「もしかして、黒子………妬いたのか?」


「………だとしたら?」


顔を向けることなく、黒子は呟いた。
先程まで五月蝿いほどドリブルの音が聞こえていたのに。
今は静かで、2人の呼吸音と遠くから車の音が聞こえるだけだ。


「いや、お前も同じなんだな、って思ってさ………」


「! 火神君も、だったんですか………?」


驚いたような顔をして、黒子はようやく顔を向けた。
火神は2号と視線を交わし、面白そうに眉を上げる。
その表情を見て、黒子はすぐ恥ずかしそうに顔を背けてしまった。

後ろから分かるほど耳が赤い。
黒子はもう一度ボールで遊び、機嫌の悪そうな声で呟いた。。


「………悪いですか」


「別に………むしろ嬉しいぜ? 少しくらい嫉妬してくれたほうが」


ニカリと音が聞こえそうなほど微笑んだ火神を見て、更に不機嫌そうな顔になった。
苦々しいとも取れそうな表情だ。
ずっとボールで遊びながら黙っている黒子に、近づいていく。
あと僅かな距離になったとき、ポツリと漏らした。


「女々しいじゃないですか」


苦々しい表情で黒子が言い放つ。


「僕は男の癖に、君を好きになってしまって、それだけでもアレなのに………。
 君の兄貴分の人にまで嫉妬するなんて、どうかしてますよ………」


「別にどうでもいいだろ? オレだって、お前のこと言えねーよ」


何を言っているんだ、とでも言うように呟いた。
黒子は勢いよく振り返る。 火神のほうが何を言っているんだという表情で。


「前まで我慢できたのが、もう無理になっちまったし。
 女なんだから、って思っても、あんなに………感情のまんま、抱きつける桃井に嫉妬しちまった」


黒子から奪ったボールで遊びながら告げた。
育った環境の問題か。 表情が変わっていないのは。
苦手としている左手かあらのシュートを決め、体ごとそちらに向ける。


「ほら、お前と同じだろ?」


「火神君………」


柔らかい笑みを浮かべ、ニカリと笑った火神をまぶしそうに見つめる。
ほんの数秒だけだったが。
黒子は再度居心地悪そうに顔を背けた。


「やっぱり、君はズルいです」


「恥ずかしげもなく、詩人になる黒子には言われたくないけどな」


「………………ウルサイです」










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