甘い悪魔が囁く。
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吐く息が白い。
乾いた肌寒い空気とにじみ合い、どこまでも広がり、そしてそれはやがて溶けていく。
12月1日。
季節はすっかり冬になった。大人に近付くにつれ、毎日が早く過ぎ去って行く感じがする。
一年って、こんなにも短かったっけ。
「もう直ぐで一年も終わり、か‥」
「どうなされましたか」
専属執事がしわくちゃに微笑んだ。ドアの前で、僕を待っている。
執事、と言えばお坊ちゃんなイメージを良くされてしまうが、実際そこまでの金持ちと言うわけではない。しかも家が馬鹿でかいものだから、皆から様々な勘違いを受けている。
ただ単に、親二人が
『大きな家を建てたい』
とか言って死ぬほど働き、小さい頃から貯めていた貯金をも使い果たして漸く広い豪邸何ぞを買ったのだ。
だから決して裕福な訳ではない。
でも結局は仕事に追われ、中々帰れないというのが現状。意味が有ったのかな、と本音を言ってしまえば実は思っていたりもする。
執事が居るのは、家の事が何も手につかない程の忙しさな為、僕と弟‥つまり僕ら兄弟を思ってのことだろう。
お金を使う時間ですらないのだから、貯まる物だけ貯まっているので、それくらいはという感じに。
鏡で身なりを整え、マフラーを羽織り玄関の扉の前で待っていた執事さんが扉を開けてくれた。
「行ってらっしゃいませ、浅海遥希(アサミハルキ)様」
ぺこりと一礼をし、温かな眼差しがこちらに向けられる。
「そんな堅くならないで下さいよっ‥行ってきます」
そんな彼に癒されながら、にこっと笑みを返し無駄に重い扉は閉まった。
「う」
閉じたと同時にひゅるりと風が吹く。
やはり今日は寒い日だ。
身を縮こませながら、ポケットに手を突っ込み足を進ませた。
何時も通りの見慣れた庭。手入れは執事さんがしてくれているため、綺麗に整備されているのだ。
頑張るなあの人‥。あんなにも年をとられているのに。
「兄ちゃんっ!」
いきなり呼び掛けられ、視線を前に戻した。
門の前に誰かが居る。此方に向かって手を振っているのが分かった。
無邪気で人懐っこい笑顔。
浅海 哩玖(アサミ リク)。僕の弟だ。
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