甘い悪魔が囁く。
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開きっぱなしの窓から、風が通り抜け、枯れ葉と共に冷たい風が舞い上がる。その度にゆらゆらとカーテンが笑ってみせた。
月明かりに照らし出された美しい青年は、前髪をかき揚げ此方をジッと見詰める。何て無気味何だろう。
まるで、誘われているみたいだ。
窓辺に座っていた青年はそこから降り、ぼんやりとそんな事を考えている僕に近寄りだした。
ゆっくりと歩いて来る。
いや、実際は決してゆっくりと歩いては居ないのかも知れない。僕の目にはそう見えただけで。
コツン‥コツ‥
靴の音が床を反響する。
そこで漸く自分の身体が動き出した。
反射的に彼が一歩近づく度に、遠ざかろうと足を後ろへ進ませる。
そんな僕の姿を見て、ふ‥と彼は笑った。何もかもを見抜いているかの様に思えた。
思わずゴクリと唾を飲む。
な、なに‥。
何でこの人はこんなにも余裕と言うか‥慣れた雰囲気なの‥?
「‥ぇ‥」
ドン‥と言う音に脚が何かにぶつかった事が分かった。そのまま僕は後ろへと倒れ込む。やっと考えられたそれにしか頭になかったせいだ。
天井を仰ぎ見る頃には、ふかふかな物が僕を優しく受け止めた。
ふわっと広がる洗剤の匂い‥。
(‥ベッドの上に居るのか。)
そう理解した瞬間、彼が僕を覆うようにベッドに手を突いた。
「‥っ‥!!」
(しまったっ‥!)
…そう思った時にはもう遅かった。