甘い悪魔が囁く。
□#3
1ページ/4ページ
『これが消える頃、また来るから…―』
…そう言って笑みを見せながら、夜の闇夜へと消え去る彼。伸ばしたその手は何の意味もなさずに、空を掴む僕の右手。
ここは、夢‥?
ふわふわとした曖昧な空間。綺麗な青年も、あの出来事も。
本当は全部、僕の‥
‥ゆめ‥‥?
「兄ちゃんっっ!」
その声にハッと意識が戻り、目を覚ます。目を覚ましたそんな僕の視界には、どあっぷの哩玖の顔。
「うわっ!り、哩玖!!」
びっくりして、ガバリとベッドから飛び起きる様に起き上がった。
「び、びっくりしたぁ‥ったく朝から驚かせないでくれよお」
心臓に手を置き、ふぅ。と一息ついた。そして安心したのか、呑気なあくびまで出てくる。
もう朝か…んー…何だか今日はいつもより身体がダルいな‥。
伸びをしながら、目を擦る。
カーテン越しから漏れる光が眩しい。今日は良い天気なのかな。この時期はまだ僕が目を覚ます6時辺りでは外は暗いのに。
「そう言えば今日は起きるの早いね」
いつもは僕の方が先に目を覚まし哩玖を起こす、と言うのが僕ら浅海家の毎朝だ。
一体どうしたのだろう。珍しいなァ。
そう思っている僕に哩玖は顔をしかめる。
「はぁ?何言ってんの兄ちゃん!兄ちゃんが起きんの遅いんだろう」
「え?」
その言葉に、瞬きを数回パチパチとさせた。
起きるのが、遅い‥?
まだ寝起きで頭がついていけない僕に、近くの目覚まし時計を今度は顔の目の前に持って「ほら、」と突き出した。
見てみればそこには目を疑う様な数字が…。
「しちじ‥にじゅっ‥‥ぷん!?」
う、
「嘘ぉおおぉおお!!!!」
7時20分って‥あ、あと10分でここから出ないと学校に間に合わないじゃないかっっ‥!
寝起きの、のんびり頭が一気に覚醒するかの様に完全に目が覚める。
「‥や‥だからまだ起きないし良いのかなァ‥って思ってたんだけど‥」
「わわわ‥ヤバいやばいやばいぃいい!!」
急いでベッドから飛び起き、学校へ行く為の準備をする為に洗面所へと急いだ。ドタバタとした足音が床を軋ませる。