月詠の舞姫

□五
1ページ/1ページ

「目が覚めたか?」

「はい……あの、ここは?」

「俺が知るか」


俺達は今檻に閉じ込められていた。
ご丁寧に手錠で背中合せに手を括られて、魔天経文を奪ってだ。


ことの発端は数時間前に遡る。
今日中に街に着かないと判断した俺達は野宿をすることになった。

悟空と悟浄は薪探しに、八戒は水汲みに、あいつは簡易的な夕飯の支度を…それぞれがしている時だった。


「?何だ、この甘ったるい臭い」

「え?……っ」


森のそこら中に充満した匂いに気が付いた時は既に遅く、俺の問に応える前にあいつが倒れた。
そしてそれを追うように俺も気を失った。

そして冒頭に戻る。


「あの匂い…睡眠作用のある木の実を炊いたものですね……あんまり薄いので気が付きませんでした……」

「いや、俺も気付かなかったからな。」


そこで会話は終った。
どうにか脱出しようにも互いに手錠で繋がれており、身動きが取れない。

沈黙が続きふと暗さに目が慣れてきた頃、それと同時に周りの状況も少し分った。


「…怖い、のか?」

「っ………」


俺の声にピクリッと肩を大袈裟に弾ませ首を降った。


「だったら何か話せ」

「………」


そう言うとまた首を横に降った。そして一瞬だけ呼吸をつまらせた様な声が聞えた。


「泣いてんのか?」

「泣いてなんか……っ」


否定を口にしたそれは鼻をつまらせた涙声で、それでも気丈を振舞っているのが逆に痛々しかった。


「泣くのは勝手だが、騒ぐなよ」

「だから泣いてなんか……」


そう言う事じゃない。
俺が言いたいのはそうじゃないんだ……。

素直に…言えない自分に溜め息が出る。
その溜め息に俺を怒らせたと思ったのか、先程の様に肩を震わせた。


「……泣け」

「え?」

「今は俺しかいないし、生憎この状態じゃ泣き顔も拝んでやれんしな」


そう言うと、次の瞬間には笑い声が聞えた。失礼な奴だ。泣けと言ったのに……

だが、お前には笑顔が似合う気がする。

桜と笑顔が似合う。


「そうやって笑ってろ――――――結妃」

「……っ」



今度はまた泣き出した。
忙しい奴だ。

そんな忙しい奴に心引かれてるのもまた事実で……。

でも、アイツの心を支配する"何か"に勝てる気がしないのもまた……事実。

俺を通して俺じゃない誰かを見ていると、そう思った。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ