月詠の舞姫外伝

□参
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「ご、悟空様いけません!私の様な下級のものがこの様な高貴な所に脚を踏み入れるなど……大将様も押さないで下さい!」


ドアの外から女の叫ぶ声が聞えた。
こんなとこで騒ぐなんざ…と思ったが、声の主が発した名称に何となく納得してしまった。


「いいからいいから!金蝉ーっあ、天ちゃんだ!!」

「悟空、久しぶり。捲簾と遊んでいたのかい?」

「うん!今日は捲兄ちゃんと、結妃お姉ちゃんに!!」

「わわっ」


結妃?と聞き返す前に悟空に手を引かれて捲簾の影から登場した女と目があった。

やはり。

桜色が似あう。


「あれ?金蝉が桜色似合うって言ったのに何で何も言わないの?」


悟空の問には答えずに無言を決め込んだまま書類に目を通していく。
捲簾がやたらと褒めてそれに謙遜と苦笑いだけで返すあいつの声だけがすんなりと心に入ってきた。


「悟空?それはね、照れ隠しって言うんだよ?」

「照れ隠し?何それ。なぁ、照れ隠しって何?金ぜ…」

「うるせー!てめぇは少し黙ってられねぇのか!」


書類の束で悟空を思い切り殴りつけた。オロオロと俺と悟空を交互に見る女よ横目でチラリとみると、頭上から天蓬の声が降ってきたのだった。


「珍しいね。金蝉が贈り物だなんて。」

「こいつが世話になったからな」


"こいつが世話になったから"なんと分かりやすいこじつけ。
本当はそんなことしてやる義理もない。

ただ、純粋にあの時……


「……桜が似あうと思ったんだ。」

「俺も!お姉ちゃんは桜が似合うと思う」


誰にとも聞き取れない声を悟空が拾い、それに同意した。


「あぁ。その髪も月みたいで綺麗な銀色だぜ?」

「月?なぁ天ちゃん。月ってなぁに?」

「月って言うのは……」


どう説明したらいいものか。と言った様子で顎に手をあてる。
直ぐに人の悪い笑みを浮かべながら悟空に向き直った。


「月は太陽がないと輝けなくて、でも太陽も月がないと働きっぱなしで疲れちゃうんだよ」

「えっと……えっと?」

「少し難しかったかな?」

「わかった!!金蝉と結妃お姉ちゃんは一緒に居なきゃダメってことだね」


今の説明でどうしてそうなるのだろうか。
やはり猿の頭では……ガキの戯言と、溜め息を吐きもう一人の当事者を盗み見ると、茹で蛸の様に顔を紅く紅潮させて、「失礼します」と言い足早に部屋を出て行った。


「彼女、金蝉のこと好きだからねぇ…。」

「だよなぁ。俺狙ってたのによ」

「知った事か……」


気づいてはいた。
小娘の気持ちも読み取れない程鈍感ではない。
だが気付いたのは今さっきの反応をみての事だ。

だったら、一体いつから?

かの舞姫としての彼女には興味はなかった。桜の木下桜を見上げる彼女が遠くに見えて、思わず声を掛けたくなったのだ。

それがどう言う感情からくるものかもわからずに。



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