宵闇と私の一週間
□4日目
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「どうして使えないのかなぁ……」
頼りなのは僕と一緒にこちらの世界へやってきた無天経文だけなのに、少しも反応を示さないどころか力を発動することも出来ない。
「それ、きょーもんってやつでしょ?」
「お帰り。いつの間に帰って来てたの?」
今日は帰りが早い、と言っていた通り時間はまだお昼前だった。
「んー今さっき。それより…きょーもん、うちんちにあるよ?」
「え?」
先程流したはずの経文の話が予期せぬ形で戻ってきた。
こんな異世界に経文があるはずがない。……でも、三蔵と名乗るお坊さん祖父の話し然り、だが何より僕はこれを経文だとは一言も言っていなかった。
「烏さんがでて来た宝物庫に保管してあるの」
「是非見せて欲しいんだけど…」
「いいよ!おじいちゃんにもらったから。」
もらったって……そんな簡単に受け渡ししていいものじゃないんだけどなぁー。
途端に偽物なんじゃないかなと言う不信感が生まれたが、見せて貰えるなら直接手に取った方が手っ取り早い。
「あったあった!」
二人で宝物庫へ行き、古びた小さな箱を取り出した。
箱には特殊な紐で封がされており、本人は気が付いていないがこれは恐らく名無しさんしか触れられない構造になっているのだろう。
「これ、きょーもんでしょ?」
箱から取り出されたのはまごう事無き経文。それも妖怪に食われて死んだとされる…名前も知らない三蔵法師が持っていた有天経文だった。
「……」
「烏さん?」
見間違いではないはず。
今確かに、この有天経文とこの子が共鳴した。
多分三蔵を継いだ訳ではないから力は使えないにしろ、素質はあるのだろう。現に経文がそうだと訴えている。
「烏さんこれ、必要?」
「名無しさん?」
「必要ならあげる。私これの価値わかんないし、おじいちゃんは"返さなきゃ"って言ってたの」
何処に返すのかはわかんないけど、烏さんがきょーもん持ってたってことは、元々あった場所知ってるんでしょ?
と続けられて手渡された有天経文。
こうも簡単に手に入るとは……
「一応確認するけど、本当に貰っていいの?僕が悪用しちゃうかもよ?」
「それならそれでもいいよ。」
そうして微笑んで見せたあの顔はやはり月と似ていて、同時に危うさを感じた。
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