短編、番外編

□月夜の出逢い
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「ま、待って下さい!!」

「だからお姫様抱っこする?って聞いたのに」

「烏哭にされるのが嫌だったんですよ」


先程から休まず山道を歩き続けているが、こんなのは旅路の道中で慣れっこだった。

だから問題はそこじゃないのだ。


そこじゃなくて……


「脚の長さが違い過ぎます……」


私の両手を引く彼らと、私とでは元のリーチが違う。よってペースとか云々のせいで余計に疲れるのだ。


「では手を繋ぎますか?」

「恋人繋ぎにしよっか」


そこからまた私が入る余地のないところで、私の処遇が話し合わ…基、言い争われた。



――――――



酒がなくなった。
と言う何とも坊主らしからぬ理由で町に降りた。

満月が昇るまだ夜中とは言い難い時間。

烏哭と二人で飲み比べを初めて、寺にあった酒と言う酒をあらかた飲み干したのだ。


「付き人とかに頼めばよかったんじゃないの?」

「……たまには私も町に下りたかったんです。あぁ…そう言えば、特等席があるんですよ」

「特等席?」


先程買った酒と肴を持ち、小高い丘にやってきた。そこの桜は万年桜と呼ばれていて季節関係なくずっと咲いている。

町の人は勿論のこと、金山寺の住職すら気味悪がって近付かないものだから逃げるのにはうってつけの場所。


「おや、先客ですか」


足音に気が付いてくるりとこちらを向いた少女に年甲斐もなく何かが芽生えた。

横に視線を移すとそれは烏哭も同じだったのか、彼にしては珍しく少女に魅入っていた。


「……こんばんは。私以外にこんなところに来る物好きがいたなんて……」

「どうです?一杯」


そう言って徳利を見せると、「私、未成年ですから……お酌します」と言って立ち上がりこちらに近付いてきた。


「……ッ!」


月夜を背にして桜の花弁を纏いながらこちらへ来た彼女は、異国の昔話の月姫さながらで……


「君、何て名前?」

「名無しさんです」

「素敵な響ですね。あ、私は光明で、こちらの黒い方が烏哭です」

「黒い方って失礼なんじゃなーい?」


そこからは時間帯も考えずに馬鹿騒ぎして、横でクスクス静かに笑う彼女に見惚れて……

さっきの時間だけでどんなに名無しさんの魅力に魅せられたことか。


これは、月夜に舞い降りた姫の物語のプロローグ。



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