短編A

□誕生日
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久し振りに宿で個室が取れた時の話しだ。


「……寒くなってきたね」


外に出ると雪はまだ降ってこないにしろ寒い季節だ。だがこんなに寒いと紅葉も枝から散ってしまい、本当に何もない。


「あぁ……」


特にそれ以外交わす会話なんてなかった。ほぼ毎日会っているのだ、会話なんて尽きてしまう。

ふと、大切な事を思い出した。


「あれ、三蔵明日誕生日?」

「―――あぁ…そうか」


ここ最近、野宿と団体さんが続いていたせいで皆疲弊しきっていて多分三蔵本人も誕生日どころではなかったのだろう。

ってそもそも旅をしているんだから、誕生日どころではない。ただの自己満足だった。


「もう!言ってくれなきゃ分かんな……ッ…」


続きは暖かく塞がれた唇に吸い込まれた。何度も角度を変えて 
呼吸さえも奪ってしまう様な口付けに頭が酸欠を起こしクラクラしてきた。


「誕生日、おめでとう……って0時越えて直ぐ言いたかったのに。それにプレゼントだって……」

「うるせぇ…てめぇは黙ってここにいろ」


それは口下手な私の最高僧様の、精一杯の甘えだった。



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