短編A
□いつか来るその日まで
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「…玄奘様?」
くじ引きで決まった部屋割り。
何日か振りで止まれた宿で、何日か振りの玄奘様と二人きり。
そして何日か振りの………雨。
「……」
「……ん」
素っ気ない返事をする玄奘三蔵様は、私を後ろから抱き抱える様にして座り、それぞれの手を絡めてお腹に回した。
肩に顎を乗せて、時折私の耳に息を吹きかけた。
「くすぐったいです」
「あぁ」
返事は返してくれるものの、なんの解決策にもなっていない。
もう少しで私達が目指していた西域に突入する。と言うことは同時に私がこの三蔵一行からの離脱を意味していた。
元々紗烙三蔵様の元にいた私は三仏神の命でこの西域まで彼らを案内するように仰せつかっていたのだ。
「……」
「……」
そこは敢えて話題に出さなかった。互いに想い合っていてもいつか来る別れが辛くならない様にそれも口には出さなかった。
だただたその日が来るまで抗う事無く、ひっそりとこの時間を楽しむのだった。
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