短編A
□B
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「孫くん、この間サボったでしょ?はいレジュメ」
「わりぃ…三蔵に届け物してたら遅れちまって…」
「教授には適当に誤魔化しておいたから。あ、あと……」
昼休み直前、早めに終わったゼミ室で教授の代わりに片付けをしている時の事だ。
他のゼミはわからないが、私のところは授業のレジュメを作る担当が定期的に回ってくる。私達はそれを"日直"と呼んでいるが、日直は他にも教授の雑用やらゼミ室の片付けやらを押し付けられて大変なのだ。
それで前回は私と孫くんだったのだが、彼がサボったので連帯責任で2週連続日直をする羽目になった、と言う訳だった。
「今日の1限の授業…孫くんが寝坊したやつのテスト。来週だから」
「はぁ!?何で教えてくれなかったんだよ!!」
「だって私、その授業とゼミしか孫くんと会う機会ないもの」
そう。同じゼミ生だからと言って特に連絡先を知っている訳ではない。
高校の時はクラス皆の連絡先を知っていたりしたが、大学生と言うのは意外とシビアで、よく話す人でも友達ではない、何て当たり前のことらしい。
大人の世界へ少しだけ近づいた…と言うことなのだろうか。
じゃぁ、あの人の連絡先を知りたいって思うのは……子供だから?
「なぁ、今日何限まである?」
「私は次で終わりだけど」
「俺さ、この授業で終わりだから……勉強教えてくれよ」
成績がギリギリでもないのに頭を下げて頼んでくる辺り、彼らしいと言うか……
中間位の順位を保っている彼が改めて勉強は必要ないと思うのだが、なんと言うか…こう言うのは断れない性だった。
「平均点取れなかったら、昼食孫くんの奢りだからね」
「ありがとよ」
―――――――
「……ん?」
ふとあれ以来気になるようになってしまった。ただ一緒に手料理を食べただけなのに、話す言葉は穏やかで、優しくすんなり耳に入ってくる様な……小学校とかの先生の様な話し方をする子だった。
「どしたの?手止まってるけど……」
「いや、隣が珍しく騒がしいなと思いまして」
「友達とか遊びに来てんじゃないの?何、気になんの?」
「……まさか」
と言いつつ気にならないと言えば嘘になるとか思っている時点で気になっているのは明白だった。
そしてベランダを開け放つとはっきりと聞こえてくるのが男の声だと言う事が何より気になったのだ。
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