短編A
□C
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ピンポーン
「悟浄!!」
「いいじゃねぇか。このままだったら朝になんだろ」
散々騒いだ後、急に静かになったものだから、きっと"お友達"が帰ったのかと安堵したのも束の間。
悟浄がニヤついた笑みで「おっ始めやがったな」と言い出し、年甲斐にもなく赤面した。
「だからって、偵察に行くことないでしょ」
「そう言いながらテメェは何持ってんだよ」
面白がって玄関へ向かう悟浄を慌てて追い駆けてきた。勿論手ぶらなのは失礼だと思い、作り過ぎた煮物…と言うベタな設定の明日の朝ご飯様に取っておいた煮物を急いでタッパーに詰めて持参したのだ。
「はーい」
「夜分遅くにすみません…。あのこれ作り過ぎちゃって……」
「友達来てたの?」
タッパーを受取る玄関で、男物の靴を目敏く発見した悟浄がすかさず彼女に問い詰めた。
「もしかして……カレシ?」
「うるさかったですか?」
特に否定しない彼女にズキリと胸が鳴った。
「そう言うんじゃないんだけど……ただちょーっと悟浄サン気になるなっt…」
「あれ、悟浄と八戒じゃん!何してんだ?」
「孫くん知り合い?」
――――――――
偶然とは何とも怖いもので、彼女は悟空の大学の同級生だった。
「すみません、勉強中に…」
「いえ。孫くんのお父さんのお友達だったなんて偶然ですね」
今日はテストに備えて二人で勉強をしていたらしい。そして突然静かになった理由は当然ながら如何わしい理由なんかではなく、先程教えた内容を小テストしていたとの事だった。
「ところで、付き合ってんの?キミら」
「「へ?」」
「悟浄!!」
確かに気になってはいたが、核心を突くのが早すぎると言うか…
ちらりと横目で彼女を見ると目が合った。
「そんな……やめて下さい!」
「じゃぁ付き合ってないの?」
「何で悟浄は直ぐにそっちに持ってくんだよ!エロ河童」
「ンだと!!脳ミソ胃袋猿が」
いつもの言い合いを初めてしまった二人を横目に、コーヒーを煎れてくれた彼女に軽く会釈をした。
勉強中に申し訳ないとか、二人がうるさくしてしまってすみませんとか言わなきゃいけないことは沢山あるのに……
「連絡先、教えていただけますか?」
「え?」
「お隣さんですし、何の縁か悟空とも知り合いの様で……ね?」
「はい!」
携帯機器をちらつかせると、笑顔で返事を返してくれた。
気になる子の連絡先を聞けただけで舞い上がりそうになるなんて学生に戻った様な気分だった。
「……ッ……花喃」
「?」
「いえ……」
話し掛けようとした横顔に一瞬だけ君の面影が重なった。
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