短編A
□一時の我慢
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「……だめ!!」
珍しく昼日中の往来で迫ってきた八戒を両腕を精一杯伸して突き放した。
何がいつもは冷静な彼をこうさせたのかはわからない。しかし、だからと言って受け入れる訳には行かないのだ。
「……っ」
今巷で流行りの壁ドン宜しく壁際まで追い詰められ、両腕は私の顔の正面に置かれていた。
あぁ、でもこの近さなら肘ドンとかの部類なのだろうか?
ともかく逃げ場のない絶体絶命の状況だった。
「八戒っ!!」
「なんですか?」
この異様な恐ろしさは、八戒の中に三蔵が入って銃を向けられた時以来だろうか?
悠長に分析している暇はない。
迫いつの間にやら近付いていた顔を、八戒の口を掌で塞ぐことで何とか阻止した。
「ダメなの!」
「でしたら……」
「ッ……!!」
怪しげに細められた瞳を見詰めて言葉の続きを待っていると、瞬間掌に湿った感触を感じた。
驚きに手を引っ込めようとするも、先程まで私の顔の横に置かれていた腕が私の腕を掴んで逃さなかった。
「ン……はっ、かぃ……」
「今の所はこれで我慢して差し上げます」
やっと自由になった手を自分の胸に戻して呼吸を整えた。八戒は満足そうに自身の唇を舐めると、私の手を掴んで来た道を引き返した。
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