短編A

□微睡みへ
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「……」


目を覚ましたのは夜明け少し前だった。
ほんの少しだけの朝日とも月明かりともつかない微量の光が窓から覗いた。


「…?…」


見知らぬ…と言うよりは見慣れぬ天井。それにベッドサイドの所定の位置にあるはずの読みかけの本がない。

良く見てみれば、同じ間取りだが家具の配置が違う。

ここは……


「……」


起き上がろうとしても身動きが取れない。金縛り?と思った矢先、後頭部に寝息が掛かった。

身動きが取れない身体で見れる範囲であたりを見回すと寝台の下には脱ぎ捨てられた服が散らばっていて、事情後の生々しい情景が視界に広がった。


「そっか……」


自分の頭の下に枕代わりに置かれた腕を見る。

少し冷たくなった指先に、自分の頭はさぞかし重かったのだろうと考えて、モゾモゾと動きながら後を振り返りまだ眠ったままの彼の顔を見ながらそっと頭を退けた。

閉じられた瞼にかかった漆黒の髪をかき分けて顔をジッと眺める。

たまに眠る時ですら眼鏡を外すのを忘れる彼の眼鏡をしてない姿は入浴中の顔を洗う時くらいしか見れないので貴重である。

更に言えば、警戒心が強い彼が深く眠っている姿はもっと貴重だった。


「烏哭様。……すき……」


最近は吠登城に篭もりっぱなしで、ずっと"博士"
と呼んでいた彼を久々にかつての呼び名で呼んだ。

私の背中で組まれた腕は、私を離す気配がないと言っているようで、勘違いだとしても幸せを感じてしまう。

少し前までは髭なんか生やしていなかった、今は無精髭だらけの顎の唇を落とした。


「腕、痺れちゃったなぁー…」

「っ!?……すみません」


キスをしたのを気付かれてしまっただろうか?恥ずかしさを誤魔化す為に彼の胸に顔を埋めると後ろから強い力で抱きしめられた。


「いつから起きてたんですか?」

「んー内緒」


この反応は多分結構前から起きていたのかもしれない。もしかすると、私が起きるずっと前から……

もうそれならそれでも構わなかった。


「俺もだよ」

「何がですか」

「それもナイショ」

「意地悪です」


繋がっている時も好きなのだが、この生まれたままの姿で抱き合っている今の時間も好きだったりする。


「……そろそろ起きないと、黄博士に……きゃっ」


そう言って起こそうとした身体は再びベッドに沈んだ。
先程よりも更に密着していて、更には衣服を纏っていないせいか体温と心音が直に伝わる。

トクン トクンと背中から伝わる鼓動に意識が微睡んで来た。


「名無しさん?」

「……んぅ……」

「寝るの?」


うん、と言う返事は声になっていただろうか?
囁くように言われた「おやすみ」に夜明けまでの少しの間だけ、と再び瞼を閉じたのだった。



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