短編A

□その後……。
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私が無事専門学校に入学して一年が過ぎた。悟空は保育科がある大学に入学したため、あと二年ある。

夏休みに控えた教育実習までひたすら実技を磨き、テストで追試を受けると教育実習には出られないらしいのでとにかく勉強をした。

そう、自分の二十歳の誕生日も忘れるくらいに……。


「ハッピーバースデー!!」

「へ?」


学校から家に帰るなり、玄関先でクラッカーを鳴らされてそう告げられた。

頭やら肩に着いたクラッカーの中身の紙吹雪を払いながら疑問符を口にする。


「もしかして、忘れてたのか?教育実習と誕生日が被ってるから今日誕生日会をやるって言わなかったっけ?」

「忘れてたって……あ!わっ……」


早く着替えて来いよ〜と言いながら先にリビングに向かった悟空の後ろ姿を眺めていると、バッグからの強めの振動が響き、驚いた後に直ぐスマホを取り出した。


「三蔵先生……」


先生じゃないと言われた日に渡されたメモ紙に書かれた連絡先。
迷った挙句"三蔵先生"と登録した。

だって他の呼び名を知らない。


「そういや先生のこと誘ってたんだ……」


少し早ぇけど誕生日おめでとう。

とデコレートも絵文字もなしに一件素っ気ない風に送られたメール。
今時のアプリではなく、敢えてメールと言うところが彼らしい…と、一旦メールを保存した。

他人に興味を示さない彼が私の誕生日、それも日にちをずらした身内のみのパーティの日程を覚えていてくれた事が嬉しかった。

靴を脱ぐのも忘れて玄関先に座り込んでお礼のメールを打った。


「わっ…」


送信完了の画面が出た直後に着信を告げる振動が掌に響いた。1コール目で画面を見ないで電話を取ったものの、直ぐに誰なのか分かった。

もしもし、よりも先に聞こえた煙草の煙を吐く吐息。


「三蔵先生?」

「もう先生じゃねぇって言ってんだろ」

「まだ、約束の日になってませんから……まだ、私の先生でいてくれてますよね」


そう言うと、溜息なのかはたまた煙草の吐息なのか、息を吐く声が聞こえた。


「俺は先生だなんて思ったこと、一度もねぇな」

「あの、三蔵先生……」

「誕生日会だろ?早く電話切ってパーティしてもらえ。家族は大切にしろよ」

「……会いたい、です」

「ダメだ。お前の為に親父さんも早く帰って来てそうだし、あのママさんも豪華な料理でも作ってるんだろ?」


先程からいい匂いをさせているのは昔から馴染んだ母の料理の香り。
がやがやと聞こえるお父さんと悟空の声。私の為に会社を半休で帰ってきてくれたらしい。

電話越しでもその声が聞えているのか、「早く行け」と促される。


「三蔵先生は、誕生日…一緒に祝ってくれる人いますか」

「そんな物好きは…お前くらいだな」


フンと鼻を鳴らしながら答える先生は容易に想像が出来て笑えた。


「次の土曜にでも迎えに行く。お前、泊まりはいいのか?」

「えっと、三蔵先生のとこって言ったら大丈夫です」

「余計ダメだろうが」


その後何言かやりとりをしていると、悟空に再度呼ばれたので名残惜しいが電話を切った。

切る、と言っているのにお互いに自分からは切らなくて何度か沈黙を迎えて笑い合っていると、今度はママに呼ばれたので流石に切ることにした。

切る間際に囁かれた愛してるの言葉が耳に擽ったさ残した。





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