短編A
□永遠に
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「あれ?」
「ん、どーかしたのか?」
肉まんをベッドの上で頬張りながらこちらに声を掛けてきた悟空に違和感を覚えた。
ベッドの上で食べ物を食べてはいけません!!と言うのもあるが、もっと気になることがあったのだ。
いや、悟空だけではない。
悟浄や八戒もだ。三蔵は…えっと。
うん、何かは変わっていると思う。
だが、三人は明らかに目に見えて変化しているのだ。
「三人とも、その格好……どうしたの?」
「新章に突入したので。どうですか?」
「あ、うん……皆似合ってるよ?八戒は、少ししか変わってないけど」
新章云々は大人の事情なので置いといてだ。
悟浄なんかはチャラさとエロさに拍車掛かっていて、不覚にもかっこいい思ってしまったのだ。
「悟浄さんの魅力に気付いちゃった?悟浄さんかっこいいーって言ってくれてもいいんだぜ?」
「あーはいはい。ところで私のは?」
皆八戒がいつの間にか勝手に着替えさせていたみたいだが、流石に女である私はそういう事態には陥らなかった。
だから何かしら用意してあるのかな?なんて淡い期待を抱きながら八戒に尋ねた。
「名無しさんのはですね…」
何やら渋っていた八戒が私から目を反らす。それを不思議に思った私が口を開こうとした時、私と八戒の間に煙草の空になった入れ物が現れた。
「三蔵?」
「暇なら付き合え」
―――――――
「おい」
「もー三蔵どこ行ってたの?煙草はこっちのお店………え?」
煙草を買いに行く、と珍しく重い腰を上げたと思ったら今度は私を置いてどこかへ行ってしまった。
そしてやっと戻って来たかと思ったら、明らかに女物の服を持って現れた。
「何この服」
無言で目の前にずいっと差し出されたシンプルな柄のワンピース。
一応受け取って、自分の身体に当ててみると丈は膝が少し見えるくらいで、嫌みにならない短さ。
戦闘をこの服でこなせるかは別として、率直に私の好みだ。
いや、それにしたって……
「えっと、これは?」
「新しい衣装だ。」
「へ?」
「八戒に言われたんだよ。お前だけサイズが分かんねぇから、一緒に選んで来いって」
三蔵が自ら私を連れ出す訳はないと言うのはわかっていたものの少しは期待するし、やっぱりそう言われてしまうと複雑だった。
喜びたいのに……素直に喜べない。
「わ、私はいいや!!うん。大丈夫だよ。三蔵だってブーツになっただけだし」
一度は受け取ったワンピースを、三蔵に突き返す。
だが受け取って貰えずに、服は私の手に収まったままだ。
突き返したはずの服を受け取ろうとはせず、それどころか煙草に火を点け始めたものだから、どう言うつもりなのかと俯かせていた顔を上げると、三蔵と不意に目が合った。
「っ…」
「俺が選んだやつが着れねえのか」
「え?」
「……帰るぞ」
「三蔵が選んでくれたの?ねぇ!」
それ以上は何も言わなかった。
煙草のついでだっていい。皆で一緒に新章を迎えられるとか、そう言った小さな事が嬉しいのだ。
この旅を早く終わらせて目的を果たしたい反面、まだ皆と……
「何笑ってんだよ」
「何でもなーい」
次の旅にはどんな衣装にしよう、とか。みんなでお揃いとか…
そんな目的のない旅も悪くないんじゃないかな?
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→あとがき