短編A

□両片想い
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「さんぞーさま!」


女人禁制のこの寺院に何事もなく出入りする明らかに女のそいつ。
町の医者だと言うから定期的に健康診断やら何やらを頼んでいて、確か今日はその日だったらしい……。

らしい、と言うのは失礼に値するかも知れないが、ことあるごとに遊びに来るのだから、真面目に仕事している時を測りかねる時がある。


「終わったのか」

「うん。後は三蔵様だけだよ?」

「俺はいい」


煙草を片手に新聞に目を落としながらそう言うと、案の定肩を揺らしながらこちらに近寄ってきた。


「喫煙に飲酒!その上甘い物好き……早寝じゃなかったら今頃死んでるよ?」


口に咥えた先程火を点けたばかりの煙草を取り返され、説教をし始める。
こんなのは今に始まった事ではない。

出会った時から煙草か酒のどちらかにしろと言われ、顔を合わせれば直に健康診断を始めてしまうのだから
、職業病もここまでくると末期だ。


「だったら」

「?」


美樹の腕を掴み、取り返された煙草を咥え直した。


「俺が死なねぇように、お前が見張っておけばいいだろ」

「っ!!」


顔を真っ赤にして直ぐ様手を引っ込めようとした様だが、その手には全く力が入っておら今だに俺の手の中に収まっていた。


「は、離して………わっ!」

「…」

「突然離さないでよ」


言葉通りに離してやれば、理不尽にもしかめっ面で注意を受けた。

顔は紅いまま眉間に皺を寄せてつかつかと出口に向う美樹。

扉に手を掛けてからこちらを振り返った。



「しょうがないから、三蔵が死なない様に私が直々に見張っててあげる。……特別だからね!」



指を指しながら宣言した後にそそくさと部屋を出て行った。



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