短編A
□両片想い
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「好きな人が、いるんです」
そう告げられた時、柄にもなく動揺の表情を浮かべたのを覚えている。
「……俺の知ってる人?」
「はい。多分誰よりも烏哭さんが知っているのではないでしょうか」
そうか。
ここに呼び出したのは僕の筈なのに、話を切り出す前にそう告げられてしまいどう切り返せばいいのか迷った挙句、詮索する言葉が出てきた。
「どうぞお幸せに」
「待って下さい。あの…何か私に用があったんじゃ…」
「忘れちゃった」
その場から立ち去ろうとする僕を引き止めた。多分僕の機嫌を損ねたと思ったのだろう。表情には必死さがあった。
「嘘です」
「え?」
「いつもそうやって周囲を誤魔化す振りして、自分も誤魔化してます」
そうかも知れない。彼女の指摘はすんなりと心に響いた。
「いつか、またいつか伝えるよ」
「今は、ダメなんですか?」
「…じゃぁ、キミの恋が叶ったらってのはどう?」
「……そんなの……ダメです」
だって私の想い人もまた、誰かの事を思っているから。
きっとこの恋は叶わない。
「それでも俺(私)は貴方を想い続ける」
誰にとも聞こえない声で。
ただ、あなたにさえ届けばいいと……
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