短編、番外編
□姫外伝
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「天蓬!天蓬はどこなの?」
「おい、黙らせろ」
「いいじゃないですか。お姫様は今日も元気で」
そいつを初めて見たのは、天帝の誕生祝いの席だった。孫娘誕生は聞いていたが、そいつがこんなに大きくなるまであれからどのくらい月日が経ったのだろうか。
平和に弛んだ顔をした天界人の中で一際凛とした瞳が印象的だったのを覚えている。
漆黒の髪に澄んだ翡翠が映えていて、自分らしくもなく思わず見惚れた。
「ここにいるのはわかっているわ!最近私に内密で別棟に入り浸っているのはっ!!」
声が徐々に近付いて来る。部屋に辿り着くまでにある数枚の扉を開け放ち現れたのは、やはりあの瞳だった。
「よう、お姫さん。よくここがわかったな」
「それ以上近寄ったら打つ」
セクハラ紛いに抱きつこうとした捲簾に、どこからともなく取り出された銃口が向う
伸ばした手を顔の両脇で降参を示す様にあげた捲簾を満足そうに見やると、銃をしまい込んだのだ。
「それ、人前では出しちゃいけませんよ?僕が怒られるんですから」
「外で出さないでいつ使うのよ」
「お姫様自ら銃を握らなきゃならねぇ事態なのか?」
資料から目を離さずに問い掛けると、たった今俺の存在に気付いたかの様な反応を見せた。
「銃は、この人の趣味です」
腰に手をあて、椅子に座っている俺に視線を合わせるように屈むと、不躾に人の顔をジロジロと覗きこんだ。
「こいつをどうんかしろ」
「金蝉に興味があるんじゃないんですか」
「これが"金蝉童子"なの?」
人を"これ"呼ばわりしたガキを咎めようにも、教育者がこれだ。
最早咎めると言う行為が面倒なのだ。
「貴方……美しいのにつまらない眼をしてるのね」
は?
何だと。
呆気に取られている俺に興味を削がれたのか、もしくは元々興味もなかったのか、フンッと鼻を鳴らして天蓬を引きずる様に連れて行ってしまった。
また、来るだろうか?
天蓬がここに居れば来るか?
だったら、今度は……あいつの分の茶も用意しててやるとしよう
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