短編、番外編
□初恋
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「あのね、さんぞーせんせい」
外で遊ぶ時間、園児たちの相手は二人の先生に任せて、俺は様子を見つつ次の工作の時間の準備をしていた。
いつもは工作の時間に何かを作るのだが、今日は他のクラスの先生が忘れ物をしたとかで、急遽変更してお絵かきの時間なった。
そして今はクラス分のクレヨンがあるかどうかみて回ったり、白い画用紙の数を数えたりと先程から大忙しだった。
「あぁ…先生な、今凄く忙しくて……」
「しろいおっきいかみなら、はっかいせんせいがいっぱいもってるよ」
「八戒が!?」
「うん!」
そうか、と頭を撫でてやると犬の様に目を細めて喜んだ。
こいつは最近両親が離婚し、母子家庭になった。もともと積極性のない性格のせいか、父親が突然いなくなったことも合わせて更に周りの友達と一緒に遊ぶことをしなくなった。
「今日もね、ママおそいの…」
母子家庭父子家庭で、子供を遅くまで預かることは珍しくない。既に卒業をしたが、前にも何人かいた。
そしてこの子もそうだった。
「お前は、皆と遊ぶの嫌か?」
「ううん。みんなすきだよ。ごくーちゃんも、ぶたぐみのはっかいせんせいも、かっぱぐみのごじょーせんせいもみんなすき」
「なら、遊べばいいだろ」
「名無しさんは、さんぞーせんせいがいいの!!」
ぎゅっとエプロンを握りしめた小さい手が僅かに震えている事に気が付いた。
前にこいつの母親と話した時に言われた事を思い出した。「三蔵先生は、旦那に似てるから…」
こういう職業に就いていると、皆平等にみなきゃいけないのはわかってはいるが、それでも何となく贔屓目で見てしまう自分がいた。
―――――――
「もう10時回ってますよ?僕、名無しさんちゃんママに電話してみましょうか?」
「あぁ…頼む」
案の定と言うかなんと言うか…一番最後はこいつの家だった。最近では働き過ぎだってくらい仕事を入れている。
「遅くなってすみません……」
「よかった…何かあったんじゃないかと……」
「いつもご迷惑掛けてしまって…」
「迷惑だなんて……こんな美人だったら、悟浄先生ほっとかないのになぁー」
「私、×付いてますよ?」
「えー?気にしない気にしない」
俺に抱き着く様に眠っていたこいつを起こそうとしたが、何度揺さぶっても起きないので仕方無くそのまま連れて行く事にした。
「じゃぁ、三蔵先生なんてどうですか?」
「あ?」
突然話題を振られて頭にハテナマークを浮かべながら母親に会釈した。
「名無しさんちゃんママの再婚の話しです。悟浄先生が振られちゃったので、ここは名無しさんちゃん本人が懐いている三蔵先生はどうかなって……」
そこまで言ったとき、母親がクスクスと笑い出した。
「三蔵先生はダメです。だって…もう名無しさんに取られちゃったから」
「ははっ違げぇねぇな!このロリコン坊主」
そのうち本人が起きてしまい、ママママと、母親の腕の中に行った。
それを少しだけ寂しく感じたんだから、あいつらの言葉に感化されたってことにして今日の話は忘れよう。
あぁ、でも明日も合ったらこの腕をから離したくなくなってしまうかもしれない……。
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