短編、番外編
□未
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高い位置に結われた長い銀色の髪は先日亡くなった大僧正のじいさんにどこか似ていた。
顔立ちは…流石に歳が若いせいかわからなかったが、雰囲気と言うか、纏っている空気と言うか…
とにかくあの、大僧正を彷彿とさせる何かがあった。
「おい」
「はい、三蔵さ……っ痛た……」
だが性格はあんなに飄々としておらず、寧ろ正反対だった。
床に散らばった資料をかき集めながらごめんなさい…と必死に謝る。
修行僧、と言う訳ではないらしい。
じぃさんがある日旅から帰ってきた時に連れていたのだとか……。
噂では隠し子やら孫だと言われていたが、そんなことはどうでも良かった。
じいさんの付き人と言う名目で、今は雑用としてここに置かれているが……どうやらだたの付き人ではなかったらしく法力やら武術が使える様だ。
本人曰く「慶雲院の大僧正の付き人が、主人を護れないとは何事」とのことらしいが、法力が使えるのものが知っての如く、生半可な修行で身に付くものではない。
もし噂が本当だとすればあるいは先天性的な……いや、詮索はやめだ。
「お茶ですか?あ、コーヒー…いい豆もらったんですよ」
「こっち来い」
「……はい」
シュンと落ちこんだ様にとぼとぼとこちらに来た。
「俺の付き人なれ」
「はい?」
「いい返事だな」
「いえ、あの……わ、私が三蔵様の付き人って…そんな恐れ多いと言うか……」
たじたじになりながら必死に拒む言い訳をしようとするが、実際のところ付き人を付けろとは言われていた。
だが、必要性を感じなかった。それは、こいつが全部身の回りの世話をしてくれていたからで……
「付き人だろ。お前がしていることは」
「………っ!!ず、図々しかったでしょうか!?」
何故そう解釈するのだろうか。
いつものうるさいくらいの世話好きはどこに行ったのか。
そう溜息を履いているうちにもブツブツと何かを言っている。
どうせ訳の分からん事だろう。
「三蔵様…あの、私は大僧正様に拾っていただいたどこの馬の骨とも分からぬ……」
「うるせぇ。返事は"はい"だ。それ以外は認めねえ」
パッと目を見開いて一瞬視線を落したが、何かを決めたのかもう一度俺の目を見た。
「はい!!」
今度こそ俺が望んでいたいい返事だった。
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