短編、番外編
□素直に言えたら
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「八戒」
「はい?」
「好き……です」
「…!!」
そう言うと面食らった様な顔をした。
「僕は……」
「やだなぁー。練習!!練習だってば!」
返事を聞くのが怖くて適当に誤魔化した。こういう時、臆病な性格が嫌になる。
相変わらず何も言わない八戒の顔を見れずに、じゃぁと言って部屋を出ようと歩みを進めた。否、進めようとしたのだ。
「っ……は、八戒!?」
「……どこへ行くんですか?」
後から八戒に抱きしめられていて、少し重みを感じた肩には頭が乗せらていた。
こんなに近付いたことなんて勿論初めてだから心臓が鳴りっぱなしで、八戒に聞こえちゃうんじゃないかってそればっかり考えていた。
「今から本番の相手の所に行くんですか?誰に告白しに行くんですか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「待てる訳ありません!自分の好きな相手が他の男のものになるのを黙って見てろって言うんですか?」
今、何て……
私の聞き間違いだよね。だって八戒には花喃さんって言う恋人が既にいて、忘れたくないって…今でも大切な人だって前に話してくれた。
今思えば、花喃さんの話しをしている八戒顔が一番好きだったんだなって……何て皮肉な話しだろう。
「あの……八戒?」
「僕は大切な人を守れなかった……だから貴女を愛する資格なんてないと思っていたんです」
「……」
「断ろうとしました。でも貴女が他の男のものになることを考えたらもっと嫌で……なんて自分勝手ですよね」
自嘲気味に笑った八戒はすんなりと私を拘束していた腕を解き、背中を押した。
「行って下さい。今の貴女なら断る人はいないでしょう」
「八戒の言葉、信じるからね。」
「はい、僕のお墨付きです。誰よりも近くで見てきたのですから。断られたら僕がぶん殴ってやります」
八戒らしい笑みを浮かべた彼に、今度こそ……
さっき背中を押された分だけ近付いた。
「好きです。私は貴方が好きなの……八戒」
「……練習……ではないですよね?」
「断るつもりなの?」
「まさか。誰かにぶん殴られますから」
ふわりと優しく笑った笑顔は、私が好きになった顔よりとても穏やかで、悲しそうな顔よりも八戒には笑顔が似合うなって。
「僕も…好きです。」