短編、番外編

□宵闇
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「月、隠れちゃったな……」


珍しく一人一部屋を取れたあるよるの事。
ここ最近は皆で同じ部屋かもしくは野宿だった為に、静かな夜は胸騒ぎがして眠れなかった。


「本当に暗いなぁ」


誰にともなく独り言を呟き、ベッドに腰掛けたまま月を眺めて睡魔の訪れを待っていた。


「眠れないの?」

「あ……」


月を隠した闇夜をも喰らってしまいそうな漆黒が目の前に降り立った。


「烏……さん」

「覚えててくれた?何年ぶりだろうね」

「はい。……今日はどうしたんですか」


窓枠に腰掛けて漆黒の法衣と髪を靡かせながらこちらを眺める目は、眼鏡に反射していて全く瞳の中が見えない。


「別にー。ただ、ウサギちゃんに会いに来ただけ」

「そうですか。私の方は変わりありませんよ」

「そう?そんなに生傷絶えない生活してるのに……」


ちらりと見られた腕を何となく隠した。今日は妖怪との戦闘が大きく、少しだけ油断していて利き腕に怪我をしたのだ。
勿論直ぐに八戒が気功で治してくれたおかげで後も残ることなく、健康状態とほぼ変わりなく過ごせている。


「それも旅の醍醐味ですよ」

「僕の所に来ない?」

「嫌です。……って最初に断ったのそっちじゃないですか」

「あれ?そうだったかなぁ」


惚ける様にクスリと笑った彼にため息を吐く。どうせ今回も"着いて行く"と言ったらあっちから断ったのだろう。
結局この人は人の気持ちを弄ぶだけ弄んで捨てるのだ。


「私に興味あったのは、光明様のモノだったからでしょ?」

「半分はそうかな」

「残りの半分はなんですか?」


そう尋ねると、徐ろに窓枠から降りて私が座るベッドに腰掛けた。
みみを隠す髪をさらりと掻き分けて厭らしくふっと耳に吐息を吹き掛ける。

嫌がりもせずに身体がピクンと反応するのだから、私も随分と従順になったものだ。


「江流クンのこと、光明の代わりにしてるトコかな」

「……ッやめ……」

「それと……」


すっと私の腰に手を回し、反対側の手で内腿を厭らしく人差し指でなぞった。


「反応が相変わらずいいね」

「っはぁ……」


クチュとわざとらしく音を立てて耳を散々舌で犯し、厭らしく内腿を這う手付きも止まらないのに核心をつこうとはしてこない行為に、身体を起こして縋っているのがやっとだった。


「やーめた」

「……へ……?」

「何、そのお預け食らった様な目。……欲しい?」

「……要らない」


そう言うと呆気ない程簡単に私から離れ、窓枠に戻った。
「欲しくなったら言ってね。満足させてあげるから」と言う言葉を残して宵闇に溶ける様に姿を消した。


「……」


身体の熱が直ぐに覚める事は無く、でも今日は江流の所に行く気にもなれなかった。


「……月。」


私はもう…闇に飲まれている。
照らしてくれる月は遠く、太陽は眩し過ぎて……結局は彼と同じ闇に生きるしかないのだ。

この熱を冷ましてくれるのも………





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