短編、番外編
□風邪
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「俺が看病してやる」
と息巻いて腕まくりをした悟空に、ベッドの中で小さく笑った。
笑ったことを咎められたのは言うまでもない。
「看病だなんて大袈裟だよ。少し喉が痛いだけだって…それに今日は町でお祭なんだってよ?」
「僕が看病してますから、悟空は三蔵と悟浄と一緒に祭りを楽しんできて下さい」
「八戒も祭り行ってきなよ。寝てるだけだったら大丈夫だから」
本当は祭りに行きたかった。
だが、私が体調を崩してしまい足止めを食らわせてしまったのだから、いくら治りかけでも祭りなんぞに出掛ける訳には行かない。
「俺が看病するってんだから、俺がするんだっ!」
「悟空?」
「分かりまし。では、名無しさんのことは頼みましたよ?悟空」
珍しく根拠のないわがままを言った悟空に、八戒はすんなりと身を引いた。
パタリと閉められた扉を最後に、途端に静寂が訪れた。
外からは賑やかな人々の声。
「悟空」
「腹減った?」
「ううん。そうじゃなくて……ごめんね…。一緒にお祭り行こうって約束してたのに」
そう言うと、悟空が近くにあった椅子を引き寄せて私の近くに座った。
「来年また来ればいいじゃんか」
「その時も一緒に行こうって言ってくれる?」
「当たり前だって!」
「そっか」
当たり前。
その当たり前が当たり前じゃなくなるのが怖かった。
まだ気が付いていない振りをしているこの心に、貴方はやすやすと踏み込んでくる。
土足のくせに心地良くて、平気で心を乱すくせにそこには安心感しかなくって……
「悟空」
「ん?」
「すき、」
「俺も!」
今はそれでもいい。
今はその好きでいいから……
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